最近家に帰ると、クダリが部屋に篭りきりでしたので不思議には思っておりました。普段でしたらリビングでポケモンと戯れているかわたくしと話しているかしていましたのに、この所夕飯を済ますと飛ぶようにして部屋に戻っていたので、わたくし、これはなにかあると踏んだのです。こっそりクダリの様子を観察していて分かった事は、クダリが部屋でライブキャスターを使い誰かに電話をしているという事でしたが、クダリが毎日電話をするような相手などなかなか思い浮かびません。…しかし、すぐに一人候補者が上がりました。ほたる様です。クダリが風呂に入っている隙に、悪いとは思いつつライブキャスターを見ると、やはりほたる様の名前が発信履歴に大量に残されており、わたくしの予想は的中致しました。何故分かったのかと問われれば、クダリはほたる様を好いているから、という以外答えようがありません。

クダリがほたる様を恋愛的な意味で好きだという事実は、クダリに直接宣告されて以来、わたくしの頭の大部分を占めておりました。クダリが恋愛感情を知っていた事はもちろん、そのお相手がほたる様だとは。確かによく懐いていたようですが、それが恋愛感情だとは思ってもみませんでした。もちろんクダリが誰を好きになろうがクダリの自由です、が…何故わたくしはこんなにも気になるのでしょうか。


「ノボリさん…ノボリさん?」
「、は」
「大丈夫ですか?なんかすごい顔して唸ってましたけど…」
「ほたる様…」


名前を呼ばれ顔を上げると、ほたる様がわたくしの顔を覗き込んでいて大変驚きました。どうやらシングルトレインを降りてベンチに座ったまま、意識を飛ばしていた模様です。急いでモニターを見ましたがシングルもマルチも動いていなかったので、ほっと息を吐きました。わたくしとした事が、勤務中であるというのになんという失態。


「すみません、少し考え事をしておりました。ほたる様は今日はシングルの担当で?」
「はい。というかシフト弄ったのノボリさんでしょう」


ああ、そういえば。クダリがほたる様のシフトをダブルに変えたと聞いて、かっとなって…。はて、わたくしは何故あの時面白くなかったのでしょうか。というより、何故ほたる様の担当域を変更したのでしょうか。改めて考えてみると、どうしてなのか自分でもよく分かりません。

しかしわたくし自身、他の方に比べほたる様を気にかけている事に自覚はありました。正直今回の件も、クダリが恋愛感情を知っていたという事より、お相手がほたる様だからこそ気になっていると言った方がしっくりくる気がします。…では、わたくしはどうしてほたる様が気にかかるのでしょうか。クダリから初めてほたる様の話を聞いた時、個体数の少ないゾロアを連れているということで、一人のトレーナーとして強い関心がありました。バトルをしたいという気持ちはもちろんありましたが、それだけではなく、接している内にいつの間にかわたくしは、何故かほたる様を守りたいと思うようになっていたのです。


「じゃあ私行きますね。ノボリさんも仕事がんばってください」
「はい。…ああ、お待ちくださいまし」
「?」
「エプロンの紐が緩んでおります。直しますので後ろを向いてください」
「ああ…すみません、」


くるりと後ろを向いたほたる様のエプロンの紐を、解けないように少し強めに縛りました。左右に歪みなし、我ながら完璧です。


「はい、これでいいですよ」
「ありがとうございます。…なんかノボリさん、」
「?」
「………お母さんみたい」
「おか、」


おか…お母さん?わたくしが、ほたる様の?なんとも言えない不思議な気持ちになりました。母親というのは自らの子に対し、守ってあげたい と本能で思うといいますが…先程述べたように、確かにわたくしもほたる様に同じ様な感情を抱いておりますが、まさか、わたくしがお母さんとは。…お母さん、ですか。


「…ほたる様」
「はい」
「わたくしは母親のような気持ちで貴女様を見ているのでしょうか」
「……いや、そんな事聞かれても。ていうかノボリさん男だし…」


頭の中がぐるぐるとして分からなくなりました。わたくしは何故ほたる様を気にかけ、守りたいなどと思っているのでしょうか。というか、守りたいとははたして何からでしょう。わたくしは何から、誰からほたる様を…。

…………いえ、よく考えれば言うまでもありません。わたくしがほたる様を守りたいと思うような厄介な相手など、たった一人しかいないではありませんか。いきすぎたスキンシップやほたる様の意志を気にしない横暴な行動、その他諸々。全てが合致したような気がして、気のせいかもやもやとしていた気持ちが晴れたような気がして、ここでようやく自分の気持ちに整理がつきました。


「ほたる様!」
「は…はい?」
「分かりました!わたくしは貴女様をクダリのいかがわしい手から守りたいと感じていたのです!」
「……は?」
「ご安心くださいまし、これからはわたくしが、貴女様を母が子を見守るような気持ちでクダリからお守りいたします!」
「今の数秒の沈黙の間にノボリさんの頭の中で何が起こったんですか?」


そうです、わたくしの使命は、クダリからほたる様をお守りする事なのです!今までほたる様が気になっていた感情にも、守りたいと感じていた感情にも、全て納得がいきました。わたくしこれからは、仕事はもちろんほたる様を守る事に全力を注ぎます。覚悟なさい、クダリ。


14.黒の納得と決意






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