相沢さんは今、頭の中が限り無く真っ白でした。呼び止めたはいいけれど、極度の緊張や焦りで、何を言おうか、またどうすればいいかだなんて全く考えれる状態ではなかったのです。



珈琲と砂糖菓子のワルツ



「何か用なの?」


初めに沈黙を破ったのは綾部くんでした。


「あの…綾部」
「何?」
「何って…その、」
「用件がないならぼくもう行くけど」


素っ気無い綾部くんの言葉に、相沢さんは胸を抉られるような苦しさを感じました。自分は今まで自分を想ってくれていた綾部くんに、こんな、いやこれ以上に酷い事を当たり前に言っていたのかと。そして同時に自分の素直な気持ちを伝えなければいけない、と感じたのです。


「私、言いたい事があるの」
「何を?文も蒲公英ももう届けていないけど」
「その事じゃない」
「…じゃあ、何?」


相沢さんはじわりと目元に涙が滲むのを感じました。誰かに思いを伝える事、まして異性を好きと思った事すら、相沢さんにとっては始めてだったのです。心臓が締め付けられるようにきゅうきゅうと伸縮して、苦しい。どうすればいいのか分からない、それでも相沢さんはぎゅっと拳を握り、涙を堪え綾部くんを見据えました。


「…綾部、聞いて欲しいの」
「…」
「私、綾部が好き」
「………相沢」
「私今まで散々綾部に酷い事言って避けてた。恋愛感情なんて分からなくて、嫌いだって苦手だって決め付けてまともに話を聞こうとさえしなかった。…今更勝手だって分かってる。綾部がもう私の事好きじゃないのも分かってる。でも私、綾部が好きなの。……そ、それだけ言いたくて、」


言い切ると、相沢さんはもう前を向いている事が出来ませんでした。大きな瞳からは我慢していた大粒の涙がぼろぼろと溢れ、地面に染みを作ります。自分の勝手で綾部くんに嫌われてしまったのを分かっていても、どうしても綾部くんに思いを告げたかったのです。自分のせいであんなにも綾部くんを傷付けてしまったという後悔の心。最初からもっと素直になっていれば、もしかしたら二人で幸せになれたかもしれないのに…そう思うだけでとてもじゃないけれど、綾部くんを直視するなんて無理な話でした。


「だーいせーいこーう」


緊迫した雰囲気の中、綾部くんの飄々とした声が響きました。


20.一世一代の告白






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