クダリさんにライブキャスターの番号を渡してしまったのは、私の人生で五本の指に入るほどの失敗だ。予想通りクダリさんからの着信の量は普通じゃなく、私は頭を悩ませていた。しかもクダリさんときたらマスターだから仕事終わるの遅いのに平然と仕事上がりにかけてくるから、十時半には寝たい私にとって非常に迷惑である。

…なんて言ってる傍から、またライブキャスターが鳴りはじめた。表示された名前を見てもうため息しかでない。私は一言言ってやろうと思い、ライブキャスターに顔を近づけて息を吸い込んだ。


「クダリさん!いい加減しつこ…」
『ほたる様、わたくしです。ノボリです』
「…へ、」


腹の底から声を出してクダリさんを怒鳴りつけようとしたら、途中で台詞が遮られた。思わず拍子抜けしてしまったが、私は聞こえた衝撃的な言葉を聞き漏らさなかった。


「…ノボリさん?」
『突然申し訳ありません。最近クダリが妙にライブキャスターを弄っていると思ったら、やはりお相手はほたる様だったのですね』
「す、すみません!私てっきりクダリさんかと思って大きい声を…」
『謝るのはこちらでございます。クダリがご迷惑をおかけして大変申し訳ございません』


なんということだ。まさかノボリさんだとは思わず、結構な大声を出してしまった。ちょっと罪悪感である。まあでもクダリさんからの着信ならクダリさんが出ると思うよね。

でも、ノボリさんにクダリさんのことでこうして丁寧な挨拶を貰うのは二度目で、やっぱりクダリさんと比べてノボリさんは比較的まともであると改めて感じた。確かにノボリさんも相当変わってるしちょっと怖いんだけど、常識があるんだよね。クダリさんも見習ってほしいものだ。まあ、言ったら面倒なことになるのは目に見えてるから言わないけど。


『ところでほたる様』
「はい」
『ライブキャスターをお持ちになっていたのですね』
「まあ一応社会人なので」
『そうですね』
「はい」
『………』
「………」


謝罪をしてくれたのはいいが、ノボリさんは会話もそこそこに、何故か黙り込んでしまった。私も特別喋る方ではないので、振るような話題も何もなかった。…なんだこの沈黙。気まずい、切りたい。ノボリさん、いつもならもう少し喋る人なのに…電話越しのため、気まずさも倍増である。


『………あの、ほたる様』
「あ、はい」
『こんなタイミングで、大変厚かましいのですが……あの、宜しければわたくしに番ご『あっノボリそれぼくのライブキャスター!』…クダリ、』
『誰と電話して…あーほたる!ノボリどういうこと!』


ガチャンッという音の後、クダリさんがぎゃあぎゃあ騒ぐ声が聞こえた。多分クダリさんがノボリさんに掴み掛かるかなんかして、ライブキャスターが床に落ちたんだと思う。あのクダリさんの様子だと、ノボリさん勝手にクダリさんのライブキャスター使ってたんだ。でも別に見られて困るものでもないし、兄弟なんだからちょっとライブキャスター使うくらいいいじゃないか…って、思うけど、まあ別に私に関係ないか。ノボリさんどんまいです。私はけたたましい音をたてているライブキャスターの電源を静かに落とした。…そういえばノボリさんは最後何を言いかけてたんだろう。ちょっと気になったが、寝て起きたらすっかり忘れてしまっていた。


13.着信あり






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