私は油断していた。クダリさんははいつもとなんら変わらないようにしか見えなかったし、もし変化に気付いたとしても気にも留めなかったと思う。ぼけーっと歩いていて気が付けばクダリさんに後ろを取られ、口を塞がれたまま何処かに連行された。無理矢理どこかの部屋に押し込まれてようやく首を後ろに向ければ、クダリさんのにやにや顔のドアップ。ホラーにも程がある。


「んーっ!」
「ほたる、しー!静かにできるなら手どけてあげる」


どけてあげるだなんて、いきなり人を引きずってきておいて何様のつもりだ。でもいつまでも口を塞がれたままでは私のなけなしのプライドが許さないので、仕方なくこっくりと頷いた。クダリさんの手がゆっくりと外される。


「何するんですか!」
「しー!うるさくしちゃだめ」


言いたい事はたくさんあるが、ひとまず、ここは何処だ。冷静になり、辺りを見回してみる。小綺麗なソファーに綺麗に飾られた花…応接室かなにかだろうか。


「クダリさん、いきなりこんな所に人引きずってきてどういうつもりですか」
「ぼくきみに用がある。逃げられたらやだから連れてきちゃった」
「用?」
「ほたる、ライブキャスターの番号教えて!」
「…またその話ですか」
「ぼく、どうしても知りたい。だから今日はおしえてくれるまで帰してあげない!」
「冗談よしてください」


いきなりなんなんだ、勝手に人を振り回して身勝手にも程がある。付き合ってられないので、私はクダリさんを無視して扉に手をかけた。…が、扉が開かない。押しても引いても、ガチャガチャ言うだけでぴくりともしない。…まさか。血の気が引くのを感じつつ、クダリさんを見た。


「…クダリさん、まさか」
「うん、鍵閉めちゃった。ぼくしか開けられないよ」
「なっ…悪ふざけにしては度が過ぎますよ!」
「きみが番号おしえてくれたら開けてあげる」
「それ脅迫じゃ…」


唖然とする私に、クダリさんはにやにや笑いながら抱き着いていた。何、何で!私は声にならない声を発してクダリさんから距離を取ろうとするが、クダリさんの力は凄まじく、私なんかじゃ勝てそうになかった。ぎゅうぎゅうと抱き込まれ、痛いしクダリさんの匂いで頭が支配されるしでどうにかなりそうだ。


「ね、番号おしえて」
「嫌です離してください!」
「ぼくもやだ。今日は絶対におしえてもらうから」


そしてクダリさんは抱き着くだけではあきたらず、あろう事か私の耳をべろ、と舐めた。ぎょっとする私を余所に、舌はどんどん下に下りて行き、首筋まで到達した。ねっとりと舐められて、鳥肌が立つみたいにぞわぞわした。逃げ出したいのに腰と肩を強く押さえ付けられて全く身体が動かない。クダリさんの舌が動く度、生暖かい息がかかって気持ち悪かった。何これ、何でこんな事に…!されるがままで硬直していたが、首筋に軽く吸い付かれた時私の我慢は限界に達した。無理!無理無理無理!!


「分かりました分かりました教えます!だから止めてください!」
「ほんと?」


私がようやく観念すると、クダリさんは嬉しそうに顔を上げた。これ以上放置していたら貞操の危機さえ感じたからだ。なんという事だ、クダリさんて子供っぽいしこういう事に関して無知だと思ってたのに、まさかこの人に耳とか首筋舐められる日が来るとは思わなかった。心臓が嫌な感じにどくどくと動いている。びっくりした、という他にない。


「うれしい!ぼくいっぱい電話するね!」
「ストレスで死にそうです」


にこにこ笑う顔が恐ろしい。密室に閉じ込められ(一緒にだけど)、度の過ぎたセクハラまでされたのだ。やだもうこの人まじで怖いんだけど。

かくして私のライブキャスターの番号はクダリさんの手に渡ってしまい、私は予想通りクダリさんの着信に頭を悩ませるのだった。前回の私よ、何が圧勝だ。多分これから先、この人に勝つなんて絶対に無理かもしれない。


12.にげられない !






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