忍になる為の学び舎である忍術学園くノ一教室の四年生に、相沢ほたるというくのたまがおりました。相沢さんは真っ直ぐで素直な心の持ち主だったので、他人の悪口を言ったり相手を避けたり無視したりとか、その類いの陰湿な行為が大嫌いでした。そんな事第三者はもちろん、やっている自分自身も良い気分のするものではないからです。けれど、人間という生き物は綺麗事ばかり並べては生きていけないもので、どうしたって合わない人間の一人や二人、はたまた三人や四人は存在するものなのです。どんな人にも平等に接する事を心掛けている相沢さんにだって、やっぱりどうしたって合わない人間は存在しました。



珈琲と砂糖菓子のワルツ



「ほたる、今日も来てるわよ」
「いらないここあちゃんにあげる」
「何言ってるのいらないわよ。ほら、はい」


相沢さんはあからさまに嫌そうな顔をして、同室のくのたまである朝倉ここあこと朝倉さんから一通の文と一輪のたんぽぽを受け取りました。天気も良くとても清清しい朝なのに相沢さんが不機嫌なのは寝起きだからというわけでなく、また朝食を食べ損ねたからというわけでもありません。どちらかといえば寝起きは良い方だし、朝食だって今まさに食べに行こうとしていた所だったのです。

彼女が不機嫌な理由は、たった今朝倉さんに手渡された一通の文と一輪のたんぽぽにありました。相沢さんは受け取った文を読む事なく押し入れの中の彼女の私物入れにしまい、一輪のたんぽぽは机の上にあるたくさんのたんぽぽが生けてある水の入った竹筒に同じように差し入れました。


「読まないの、手紙」
「いいの。書いてある事なんて分かりきってるから」


まるで気にする素振りも見せず、相沢さんは櫛で寝癖のついた髪を梳き始めます。朝倉さんはそんな相沢さんを呆れ顔で見て、また、自分も髪を梳き始めました。


「綾部くんも飽きないわよねえ。こんなにも拒絶されてたら諦めるわよ、普通」
「学習しないんだよ」
「……あんた本当に綾部くんには辛口ね」


朝倉さんの言葉に相沢さんは髪を結い上げる手を止めて、ため息を吐きながら机の上のたんぽぽを指で一撫でしました。


「だって私、綾部喜八郎だけはどうしても無理なの」


一通の文と一輪のたんぽぽの送り主の名前は綾部喜八郎。忍術学園四年い組に在学する男子生徒で、平等主義の相沢さんにとって数少ない、どうしたって合わない人間でした。


01.一通の文と一輪の蒲公英






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