仕事を終え着替えて、外へ出していたゾロアをボールへ戻し更衣室を出た時、ライブキャスターが軽快な音を鳴らし着信を伝えた。着信はお母さんからで、どうやら帰りに卵と牛乳を買ってきて欲しいらしく電話したらしい。恐らく夕飯はオムライスであると予想した私は二つ返事で了承した。いいよね、オムライス。上がるテンションを押さえつつ、じゃあ後で、と言って電話を切った瞬間だった。


「ほたる!」
「っぐえ、」


首にいきなり巻き付いてきた腕に、苦しくて本気で噎せた。おいおいすごい声出たぞ。驚きも動揺も感じない。頭を支配するのは呆れと諦め、怒りの三つである。


「クダリさん、痛いじゃないですか!」
「ごめんね。痛いの痛いの、飛んっ」
「でかないですから。いきなりなんなんですか…」
「ねえねえ、それきみのライブキャスター?」
「は?…ああ、そうですけど…」


私が喉元を押さえながら睨みつけているのが見えないのか、クダリさんは目をきらきらと輝かせた。目線の先には私のライブキャスター。うわ、嫌な予感。


「番号おしえて!」


予感的中である。


「無理です」
「えー!なんでなんで!」
「ていうかなんで教えなきゃいけないんですか」
「家でもほたると話したいから」
「却下です」


クダリさんに番号が渡ってしまったら、きっと恐ろしい事になる。暇だのなんだの理由をつけて、イタ電顔負けの件数の電話をかけてきそうだ。仕事場以外でクダリさんに悩まされるなんて冗談じゃない。


「クダリさんまだ仕事中でしょう。早く持ち場に戻った方がいいですよ」
「番号おしえてくれたらもどるよ!」
「無理です。お仕事がんばってくださーい」
「すっごく棒読み!」
「ああもう、とにかく私早く帰りたいんです。オムライスが私を待ってるんです!」
「オムライス?」


仕事でくたくた、更に空腹になった私はイライラしていた。家に帰ればオムライスなのに、何で私はこんな所でクダリさんと話してるんだろう。


「とにかく、どいてくれないなら問答無用です。ゾロア!」


私はゾロアの入ったモンスターボールを宙に投げた。赤い光と共に出てきたゾロアは外に出れて嬉しそうだったけど、クダリさんを見ると一変、ぐるると威嚇を始めた。びくりと肩を揺らすクダリさん。よし、計画通り!


「クダリさん、どいてくれないならまたゾロアが牙を剥きますよ」
「こ、こわい言い方しないで!」


クダリさんは完璧に逃げ腰だ。噛まれた時はもちろん、消毒もそうとう痛がってたから軽くトラウマになってるんだろう。これはチャンスである。私はゾロアを抱え、全速力でギアステーションの出口へ走った。腰が引けているクダリさんは完璧に出遅れていて、私は勝利を確信した。いける!


「ではクダリさんお疲れ様です私は帰ります!」
「あ、ほたる!」


いつもはクダリさんに振り回されてばかりいるけど、今日は私の圧勝である。さようならクダリさん、こんにちはオムライス。私は切なげにきゅるると鳴るお腹を摩りながら、スーパーへと全力疾走した。夜ご飯のオムライスはすっごくおいしかったです。


11.うまく にげきれた !





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