届き始めてから初めて文がなかった日の次の日も、次の日も次の日もその次の日も、相沢さん当てに綾部くんから文が届く事はありませんでした。


珈琲と砂糖菓子のワルツ


「今日も文なかったわねぇ。あと蒲公英」
「………」
「会いにどころか挨拶も交わしてないみたいだし」
「………」
「巷じゃあんた達が付き合ってるのか別れたのか噂してる輩もいるらしいわ」
「………もともと付き合ってなんかないよ」


場所は運動場が見渡せるほど高所に位置する、くノ一教室の色とりどりの草花が咲き誇る庭。華やかな雰囲気と真逆な雰囲気を漂わせる相沢さんは、じっとりと見つめてくる朝倉さんを見ないように目を伏せました。


「でも今回のあれは本気であんたが悪いわよ。もちろん話を切り出した私にも責任はあるけど」
「………うん」
「…ねえほたる、今も本当に綾部くんの事嫌い?」
「………」
「違うでしょ?ついむきになって言ったんでしょう。なら、誤解を解かなくちゃ」
「…………」


ああ、私の親友って恐ろしい…と相沢さんは思わずにはいられません。言う事何から何まで言う事全て朝倉さんの言う通りなのです。しかし、相沢さんだって出来る事ならそうしたいのですが、そう簡単にはいきません。相沢さん自身自分の厄介な性格は理解していましたが、最早それは意地みたいなものでどうする事も出来ないのです。


「…あ。あれ綾部くんじゃない?」
「、え」


顔を上げて朝倉さんが指差した先を見ると、運動場の一角に、確かに綾部くんがいました。相沢さんがはっとして顔を上げると、はたと綾部くんと目が合いました。何日振りかに合った視線。ほんの数日なのに、相沢さんは何故だかとても久しいような、懐かしいような気さえしました。しかし、それも束の間。なんと綾部くんは無表情でふいとすぐに視線を相沢さんから外したのです。今まで二人の目が合った時、綾部くんの方から逸らした事なんて一度もなく、あまりにあからさますぎるすぎる綾部くんの態度に相沢さんの心臓がどくりと跳ねました。


「………」
「…あーらら。逸らされたわね、確実に」
「逸ら、」


目を逸らされたあまりの衝撃に放心状態になっている相沢さんを横目で見ながら、朝倉さんは小さく息を吐きました。相沢さんがもう綾部くんを嫌ってなどいない事は、目に見えて明らかです。


「で、どうするの?」
「どうするって…何が」
「何がじゃないでしょう、このままでいいの?」
「う、うーん…?」
「…まあ、動転する気持ちは分からなくはないけど」
「………」
「………」


状況に着いてこれていない相沢さんとは逆に、朝倉さんはこの状況に何か引っ掛かるものを感じていました。何かが変な気がする、そう思えて仕方ないのです。しかし考えても答えは見つかりません。それよりも今朝倉さんが出来るのは、相沢さんを手助けする事。鈍くて意地っ張りな親友の為にも、必ず二人を仲直りさせてみせると心の中で決意しました。

相沢さんは一人、未だ状況に着いていけないまま。


16.からっぽのこころ






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テーマ「人外ファンタジー」
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