「あたしはノボリさんかしら」
「じゃあ、私はクダリちゃんにしようかね」
「私もクダリさんね」


私が男性職員用トイレの清掃をしていた時である。男子トイレから出て女子トイレに向かうと、おばさん達が何やら双子のマスターの話題で盛り上がっていた。しかもこれは流れ的にノボリさんとクダリさんのどちらが好みかとか、そんなんじゃないだろうか。使っていた洗剤がなくなったからおばさん達の使っているものを分けてほしいんだけど、話し掛けにくさが異常である。


「…あのすみません、洗剤きれちゃったんですけ、」
「あら、ほたるちゃん!」
「主役の登場よ!」


それでも意を決して話し掛けると、何故かおばさん達はきゃあきゃあとさっきより盛り上がりはじめた。…主役?って何?


「主役ってなんですか?」
「正しくは主役っていうか、ヒロインかしらね」
「ひ、ヒロイン…?」
「そう。で、ヒロインにはヒーローが必要でしょ?私はほたるちゃんにはクダリさんが良いと思うんだけど、皆結構意見がばらばらだから盛り上がっちゃって」


初めは意味がよく分からなかったけど、徐々になんとなく理解した。…つまり、おばさん達がノボリさんだのクダリさんだの言ってたのは、おばさん達が個人的に私とくっついて欲しい方だったって事…?身震いした。何その話題!何その選択肢!


「や、止めてくださいよ!私ノボリさんともクダリさんともどうこうする気ないし、向こうだってそう思ってます!」
「ほたるちゃん鈍いわねえ」


おばさん達は目配せし合ながらにやにや笑っていた。本気で止めていただきたい。確かに二人共異常に絡んでくるが、それに恋愛的な意味は皆無である。だってあのバトル狂だよ普通に考えて有り得ないだろう。…ていうかあの人達多分初恋とかもまだなんじゃないかな。それになんというか、二人の私の認識は恐らくおもちゃ的なものだと思う。おもちゃとか自分で言っててむかつくけど。


「見てればすぐに分かるのにねえ、おばさん達もうじれったくて」
「勘違いだと思うんですけど…」
「あら、クダリさんは分かりやすいし、ノボリさんだってほたるちゃん以外に女の子と話してるの見た事ないわよ」
「単に女の知り合いが少ないだけじゃないですか?」
「もう、頑固ねえ」


そう言って甲高い声で笑い合うおばさん達は至極楽しそうだった。ほぼ毎日ノボリさんとクダリさんを相手にしてきたから分かることだが、こういう場合これ以上話をしても無駄である。


「あの、取りあえず今の話マスター達の前ではしないでください」
「分かってるわよ!」
「第一私達、二人とこんな話するような間柄じゃないしねえ」
「とにかくおばさん達はあんた達を応援してるからね!」
「本気で勘弁してください」


10.おばさま方は噂好き






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