「すみません、首人形をお借りしたいんですけど」
「…首人形?」


次のくノ一教室の授業内で使う予定の首人形を借りる為ひょこりと作法室に現れた相沢さんに、今月の予算案をまとめていた六年い組の作法委員長こと立花くんは不思議そうに首を傾げました。(ちなみに何故相沢さんが借りにきたか、というのはなんて事ない、相沢さんが四年生くノたまの用具委員だからです。授業内で使う備品の用意は、主に用具委員の仕事でした)


珈琲と砂糖菓子のワルツ


「授業か」
「はい、出来れば二つほどお借りしたいんですけど…」
「それはもちろん構わないが、わざわざ作法室に借りにくるとは手間じゃないか?用具倉庫にも首人形はあるだろう」
「はあ、先程行ったんですけど、一年は組が借りていったみたいなので」
「なるほど」


相沢さんの返答に納得したのか、立花くんは了解の印に頷いて見せました。そして書類を書く筆の動きを止めて立ち上がり、棚の上の首人形の入った桶を二つ、相沢さんに手渡します。


「持てるか?少し重いからな、転ぶなよ」
「あ、はい。ありがとうございます」


では、と作法室を後にしようとする相沢さんでしたが、ふいに立花くんが「そういえば」と呟いたので、立花くんの方に再び向き直りました。


「相沢、お前ようやく落ちたみたいだな」
「…落ちた?」
「思っていたより長くかかったな。いやでも良かった、哀れな後輩の姿を見るのが忍びないと感じていた所だ」
「……はい?」


一人で意味の分からない事を語り出した立花くんに、明らかに会話が噛み合っていない相沢さんは混乱しました。


「(落ちた……何に?哀れな後輩って私?)…あの先輩、何の事ですか?」
「まああいつは色々と大変だろうからな。何かあったらすぐに言え、相談くらいは乗ってやるぞ」
「えっ、ちょっと待ってください。だから何の話ですか?」
「今更照れる事もないだろう。何を挙動不審になっているのだ」
「……照れ…?」


目を細めて面白そうに相沢さんを見る立花くんでしたが、全く照れてなどいない相沢さんはますます意味が分かりません。しかし相沢さん自身、なんとなく嫌な予感はしていたのです。なにせ、あの作法委員長である立花くんがこれほど楽しそう…というか、面白そうに不敵に笑う事は、滅多にない事なのですから。そして、きわめ付けは「落ちた」と「あいつ」という言葉。


「相沢、お前ようやく綾部と恋仲になったのだろう?」
「…………は」
「隠さずとも良い。確かに綾部はよく分からん奴だが、お前を不幸にしたりはしないよ」
「……………はあああ!?」


相沢さんは、ようやく立花くんの言葉の意味を理解しました。


13.作法委員長






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