「……………」


日々溜まる胸に引っ掛かるもののせいで、相沢さんの周りにはどんよりとした空気が流れていました。


「……おかしい」
「何が?」
「なんか、最近勢いに流されてる気がするの」


珈琲と砂糖菓子のワルツ


「勢い?何の」
「………綾部」


相沢さんは少しずつですが、実習の件やら日記の件やらで、最近の自分の綾部くんに対する態度が無意識に変わってきている事になんとなく気がつき始めていました。それもあろうことか、悪い方ではなく、良い方に。


「あんたまた綾部くんの話?ついに惚れたとか?」
「違う!そういうんじゃなくて、確かにあいつの話題だけど真逆の意味なの!」
「あそ。ていうか、そんなのいつもの事じゃない」
「だからいつもとは違うんだって!」
「違うって?」
「…………それは、」


言えるはずがありませんでした。好き、とはいかないものの、あれだけ邪険にしていた綾部くんに今更好意を抱き始めているだなんて、あまりにも身勝手だと思ったからです。そして何より、相沢さん自信がそれを認めたくないのです。答えられずにしどろもどろしている相沢さんに痺れを切らして、朝倉さんは口を開きました。


「で?ほたるは結局どうしたいの」


その言葉で本来の目的を思い出して相沢さんは、はっと我に返りました。そうだ、私の気持ちの変化を悟られないためにも、そしてこの感情が一時的なものだという事を証明するためにも、綾部と距離を置かなくては…という、目的を。


「……あのね、私ここいらで、綾部に迷惑だってばしっと言ってやろうと思うの!」


気合いを入れてそう言った相沢さんですが、朝倉さんは頬杖をついていて、特に相沢さんの台詞に耳を傾けません。むしろどこか冷めた目さえしていて、相沢さんは訳が分からず怯みます。


「ここあちゃん、ぼーっとしてどうしたの?」
「………ほたる、あんた、ほんとに綾部くんの事迷惑だって思ってる?」
「……どういう意味?」
「感情に流されるとあとで後悔するわよ」


滅多に見る事のない朝倉さんの真剣な顔に、相沢さんは一瞬ぎくりとしましたが、どう返事して良いか分かりません。失う、というのはもちろん綾部くんの事ですが、相沢さんはそれを言い当てられた事に酷く動揺したのです。


「…だって私、もともとあいつの事好きなんかじゃないし」
「ふーん…まあ、ほたるがいいならいいけど」


何かを含んだような朝倉さんの言葉に相沢さんは再び不信感を覚えましたが、不信感を覚えたところで訳も分からず朝倉さんの言葉の真意にまで辿り着く事が出来ません。


「でも覚えといてよ。私、忠告したからね」


家族や友人の忠告は、時として神のお告げほど重要であったりするのです。


10.彼女の決心






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