「い、痛くしないでね、ぜったいだよ!」
「分かりましたから気持ち悪い言い方止めてください」
「だって痛いのやだ…」
「はい染みますよー」
「っぎゃあああ痛いいい!」


消毒液を傷口に垂らしただけで、クダリさんはまた涙目になっていた。彼は身長は高いしガタイも良いのに中身は本当に子供だ。傷口に息をふーふー吹きかけているクダリさんは、実際の年齢よりずっと幼く見える。まあまあでかい子供だこと。


「痛くしないって言ったのに!」
「仕方がないでしょう。消毒なんだからちょっとは我慢してください」
「…痛いの痛いの、飛んでけーってしてくれたら、がまんする」
「私がそれをするとでも?」


傷口から垂れる消毒液を拭き取りながら思わず呆れてしまった。さて遅ればせながら、ここは医務室である。やはりゾロアはクダリさんに結構な強さで噛み付いていたらしく、彼の手には歯型と血液が残っており、なんとなく罪悪感を感じた私はあの後こうして手当てをしてしまっているのだ。いやこうなる原因を作ったのはクダリさんだけどね。


「ガーゼして包帯巻くのでじっとしてくださいね」
「動いたら?」
「さっきの倍の消毒液かけます」
「や、やだ」


クダリさんは消毒液がよほど嫌らしく、包帯を巻いている間珍しく微動だにしなかった。…きっとこの人注射とか駄目な人だろうな。注射から逃げるクダリさんを想像したら笑えてしまった。


「はっ」
「急に鼻で笑ってどうしたの?」
「いえ別に。…はい、終わりましたよ」


結び目をハサミで切り落とし、治療完了である。私が消毒液などを片付けながらふとクダリさんを見ると、彼は手に巻かれた包帯を見ながら、にたにた笑っていた。…一体なんなんだ。不気味である。


「ほたる」
「なんですか?」
「きみすっごく不器用!」
「っ殴りますよ本気で!」


何かと思えばせっかく人が手当てしてあげたのになんだこの仕打ちは!どうせ不器用だよ悪かったですね!分かってるわそんな事!鋭く睨みつけてもクダリさんに効果はなかった。ちくしょう事実だけど悔しい。


「でもぼくうれしい」
「噛まれた事が?…マゾですかクダリさん」
「違う!きみが手当てしてくれたこと」
「はあ?」
「ぼくほたるに嫌われてると思ってた。だから手当てしてくれてすごくうれしい」


私は思わず口をぽかんと開けてしまった。…何にも考えてないと思ってたけど、クダリさんでも人に嫌われてるとか思ったりするんだ。意外である。…しかし、それを笑顔で言うものだから、またなんとなく罪悪感。完全にクダリさんのペースである。


「…私別にクダリさん嫌いじゃないですよ」
「ほんと!じゃあ好き?ぼくの事好き?」
「苦手です」
「えー」


ぶーたれながらも、クダリさんの顔はなんとなく嬉しそうだった。…しまった、調子に乗せてしまっただろうか。嫌いじゃないって言っただけなのに。しかも苦手だって言ったのに。調子のいい人だ。


「じゃあぼくきみに好きになってもらえるようにがんばる」
「いえいえ、それよりぜひ仕事の方がんばってください」
「やだ!ぼくすっごくきみが好き。だからきみにもぼくのこと好きになってほしい」


一瞬息が詰まるくらい心臓が跳ねた。やだこの人心臓に悪い。好きとか好きになって欲しいとか、紛らわしいにもほどがある。クダリさんに限って有り得ないが、これじゃまるで告白みたいじゃないか。彼氏いないイコール年齢な私は、不覚にもちょっとどきりとしてしまった。相手はクダリさんなのになんたる事だ。


「だんだんきみはぼくを好きになーる、だんだんきみはぼくを好きになーる……どう?ぼくのこと好きになった?」
「馬鹿にしないでください」


やはりちょっとでもどきっとした自分が馬鹿だったらしい。


08.好き?嫌い?






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