今までのお話からは想像し難いかもしれませんが、相沢さんは意外とマメな性格で、どんなに短文であっても毎日寝る前に必ず日記を付ける習慣がありました。別に付けて何かをする、という訳ではないのですが、もはやそれは相沢さんにとって日課のようなものなのです。今日も一日を日記に綴り、眠ろうと床に入ろうとしたのですが、ふと、ただなんとなく、久しぶりに過去に付けた日記を見直し始めました。


「………………あ、れ…?」


読み進めていにつれ、相沢さんは日記を読みながら首を傾げつつ、引きつり笑いを浮かべました。



珈琲と砂糖菓子のワルツ



「……」


ゆっくりと日記を閉じて、瞬間、相沢さんは「ありえない…」と呟いき思わず両の手で頬を包み込むように覆いました。というのも、相沢さんは自らの日記を読み直していて、とんでもない事に気がついてしまったのです。それを知る為にほんの少しだけ、相沢さんの日記を拝見する事にしましょう。相沢さんは再び恐る恐る日記を捲り始めました。

*

5月12日
くノ一教室の庭から運動場を覗いたら、なんでか綾部がいて目が合った。
最悪。速攻で逸らした。


5月13日
朝、また食堂で綾部に会った。なんであんな頻繁に会うのか分からない。
でもあんまりにも綺麗な笑顔で「おはよう」って言われて思わず普通に挨拶を返してしまった。
全然好みじゃないけど!


5月14日
ここあちゃんと町にお出かけ!新しい髪飾りを購入。
隣の店に綾部らしきふわ髪を見た。ついてない。


5月15日
今日はくノ一教室下級生の子と合同授業だった。
私のペアだった亜子ちゃんという女の子だったんだけど、なかなか将来有望な子だと思う。
なんとなく雰囲気と髪型が綾部に似てる。亜子ちゃんのが断然かわいいけど。

*

「(………何これ!)」


相沢さんはきっと日記帳を睨み付けました。しかし顔はうっすらと青白く眉が垂れ下がっているので、全く迫力がありません。


「あ、ああ有り得ないってば…何これ……」
「ほたる、あんたさっきから独り言うるさいわよ」
「だっ、ここあちゃん…だって、綾部が……」
「は?綾部くん?」


そうなのです、綾部くんです。相沢さんは最近の日記に綾部くんについて触れていないものがない事に気付いてしまったのです。つい十日ほど前…つまり、忍たまとくノたまの合同実習の日から、相沢さんの日記にはたわいないことですが、毎日必ず綾部くんの名前が出ていました。はてさてそれは、偶然か必然か、はたまた無意識か故意か。


09.乙女の秘密の日記帳






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