「ぼくってすごく神様に愛されてると思う」
「私ってすごく神様に嫌われてると思う」


同じ色の布を腕に巻き付けている綾部くんと相沢さんは、ただ今四年生忍たまとくノたまの合同実習の最中でした。



珈琲と砂糖菓子のワルツ



「何で私がまた綾部とペアなの最悪」
「相沢実技の成績悪いから、バランス取るためにぼくと一緒になったんだと思うよ。やったね相沢、運動音痴に生まれてくれてありがとう」
「うるさい成績悪いとか言わないで!ていうかありがとうとか本気で屈辱なんだけど!!」


相沢さんは言い返しはしましたが、否定はせず悔しそうに唇を噛みました。そうなのです、今まで話題に上がらなかったので触れませんでしたが、実は相沢さんは実技の授業があまり得意ではありませんでした。頭の回転は早いし、勘も良く働くのですが、どんくさいというかなんというか、まあつまり、少しばかり動きが鈍かったのです。実技の実習となれば、やはりバランスを取るため成績の悪い者と良い者、平均的な者と平均的な者…という具合に組まされるのは当然といえば当然です。実技の成績がとても優秀な綾部くんと組まされているという時点で、相沢さんがどれ程の実力か分かっていただけると思います。

実は前回、つまり綾部くんと相沢さんが出会ったきっかけである実習でペアになったのも、こういう訳だったのです。


「とにかくっ私の足は引っ張らないでよねっ」
「(それって普通ぼくの台詞じゃ…言わないけど)」
「……何か言いたげね、綾部」
「…いや。ねえ相沢、君実技は苦手だけど、教科の成績は良いよね?」
「まあ、実技出来ない分そっちでとらなきゃいけないし、それなりには。……多分、だけど」
「そう。じゃあ、ぼくから提案があるんだけど、聞いてみない?」
「提案?」


綾部くんは何かを企んでいるような、悪戯っぽい含み笑いをして相沢さんを見ました。


*


「ねえほたる、聞いた?さっきシナ先生が言ってたんだけど、あんたと綾部くんこの間の実習の成績一番だったらしいわよ。あんなにいつも実技の成績悪くて、しかもペアは綾部くんなのに、急にどうしたの?」


実習から数日たったある日の授業後、自室に足早で戻って来てやや興奮気味で話す朝倉さんの言葉に、相沢さんは持っていた墨汁をたっぷりと含んだ筆を半紙の上に落としてしまいました。宿題をやっていた半紙が台無しになってしまったのにそれさえ気にせず相沢さんは目を見開いて、口をぽかんと開けています。


「え、うそ…ほんとに?」
「シナ先生から聞いたんだから確かだってば!リアクション薄いわね」


朝倉さんはつまんない、と口を尖らせましたが、別に相沢さんはリアクションが薄いのではなく、あんまり驚きすぎて反応しきれずにいたのです。それもそうでしょう。いつも相沢さんの実技の成績は下から数えた方が圧倒的に早いのです。


「ねえ、ほんとどうしたのよ?何かあったの?」
「いや…どうしたのっていうか、なんていうか」
「何よ」


相沢さんの頭の中で、実習の日の事が鮮明に蘇りました。


*


「提案って何?」
「相沢、君は謙遜したけど、君の教科の成績は世辞なしで良い。実際くノ一教室の実習じゃ作戦参謀やってるだろ?」
「あんた何でそんな事知ってるの?」
「いいから。…だから相沢に策を考えて欲しい。つまり相沢が作戦参謀、ぼくが特攻隊。ぼくは相沢の指示通りに動く」
「私一人で?でもそれじゃもし策が失敗したら私じゃなくて、」
「そう、もし失敗したらダメージを食らうのはぼくだ。でもだからこその合同実習だろ?役割はやっぱり半々じゃないとね。前回はお互い単独行動に近かったし」
「でも、」
「大丈夫、相沢なら出来るよ」



*


そう言ってふわりと笑った綾部くんに、何故か相沢さんは断る事が出来ませんでした。むしろ、無意識にその笑顔に安心して断る気さえ起こりませんでした。そしてそのせいか、それからなんとか足を引っ張らないように必死に考えた作戦が不思議なくらい上手く進んだのです。まさか相沢さん自身、あんなに作戦通り物事が進むなんて思ってもみませんでした。

もちろん綾部くんの腕が良かったというのもありますが、綾部くんのこの提案は、実技授業にコンプレックスを持つ相沢さんのプレッシャーを上手くほぐしてくれたのです。おかげで相沢さんの作戦はそれまでにないくらい完璧で隙がありませんでした。頭の切れる相沢さんと身軽で素早い綾部くんのコンビはまさに最強です。言葉にこそしませんでしたが、実習が終わった後それを相沢さん自身うっすら感じていました。


「ほたる、勿体ぶらないでよ」
「別に勿体ぶってなんかない…けど」
「けど?」
「………ちょっとだけ、綾部に感謝…した、かも」


もごもごと口をごねらせながらそう言った相沢さんに、今度は朝倉さんが驚く番でした。


「何それ!ちょっとほたる、あんた実習で何あったのよ!」
「……秘密」


少し、ほんの少しだけ、綾部くんに対する見方が変わった相沢さんでした。


07.二回目の奇跡






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