私の悩みの種である白いサブウェイマスターには、なんとよく似た双子の兄弟がいる。
「おはようございます」
「おはようございます、ノボリさん」
「ほたる様、今日こそはシングルトレインにご乗車してくださいまし」
「ノボリさん、見て分かると思いますけど私今仕事中なんですよね。……あれ、デジャヴを感じる」
白いサブウェイマスターことクダリさんの双子の兄弟である黒いサブウェイマスターことノボリさんは、クダリさんと同じくこのバトルサブウェイのシングルトレインとマルチトレインのサブウェイマスターである。顔は恐ろしいくらい酷似している二人だけど、口の角度とテンションが全く異なるので間違えることはない。クダリさんは相当キャラが濃いけど、ノボリさんもなかなかである。
「ノボリさん、私確かにゾロアを連れてますけどあの子戦えないし、そもそも私トレーナーじゃありません」
「存じております」
「は…?」
つまり、なんだ。ノボリさんは私が一勝も出来ないのを承知でシングルトレイン乗車を勧めてたのか。最近やたら私にシングルトレインへの乗車を強要していたけど、なんて人だ。
「あの…一応聞きますけど、知っててどうしてトレインに乗せようとしたんですか?嫌がらせですか」
「いいえ、滅相もございません。ただわたくしは貴方様とバトルをしてみたかっただけです」
「はあ…」
なんかよく分からんが、ノボリさんは私とバトルがしたいらしい。流石バトル狂。だけど先に述べたとおり私のゾロアはバトルをした事がないから無理だ。それを理由に丁重にお断りすると、ノボリさんは少し寂しそうにしたが納得したのか、「分かりました、でもいつか貴女様とバトル出来る日を楽しみにしております」と言った。ええそうですね十年後くらいに。
「ところで話は変わりますが、最近ほたる様と会う事がめっきり減ったように感じます」
「いや私ホームの掃除担当なんで。ノボリさんほぼ車両の中だし会わないのが普通だと…」
「それも存じております。ですが最近ダブルトレインのホームにいる事が多いのは何故でしょうか」
「ああ、それならクダリさんが私の担当域をダブルトレインのホームにするよう私の上司に言ったらしいですよ。迷惑な話ですよね」
「…なんと」
私が失笑を零すと、ノボリさんが目をかっと見開いた。こっ怖い。
「分かりました。わたくしが直談判してまいります」
「何をですか」
「大丈夫です。明日シングルトレインのホームでお会いしましょう」
「何の話ですか」
話が通じないのは白いマスターも黒いマスターも同じである。引き下がってこないぶん、ノボリさんの相手の方が楽だけど。
次の日出勤すると、私の担当域が週にシングルトレインとダブルトレインが半々になっていた。何が起こった。非常に釈然としないけど、マルチトレイン担当になるよりは百倍マシなので黙っておく事にした。
02.清掃員と黒いサブウェイマスター