「相沢、一緒に塹壕掘りしに行かない?」
「何デート誘うみたいなノリでふざけたこと言ってるの?」


にっこり。相沢さん、顔は笑っているけど、目が笑っていません。片手にシャベルを抱えて(しかも二本)くノ一長屋へとやって来た綾部くんを怒り半分呆れ半分で見やりました。



珈琲と砂糖菓子のワルツ



「やだな、ふざけてなんかないよ。相沢の言った通りデートに誘ってるんだから」
「あ、今のデートに誘ってたの。主観が違いすぎて全然分からなかった馬鹿にされてるのかと思った」
「っていう事で相沢、塹壕掘りしよう」
「嫌に決まってるでしょ」


ざっくりきっぱり、相沢さんは再び綾部君の誘いを拒否しました。綾部くんがこうして休日や授業後に相沢さんを尋ねて来る事は決して珍しい事ではありません。そしてこうして綾部くんの誘いを相沢さんが一蹴するのも、またお約束のパターンなのでした。


「あのね、女の子が落とし穴掘りに誘われて嬉しいと思う?」
「落とし穴じゃなくて塹壕だよ」
「どっちでもやる事は変わらないでしょう」
「どうして?楽しいよ、塹壕掘り」


女の子にとても人気のある綾部くんですが、いまいち女心というものがよく分かっていないようで、相沢さんが何故誘いを断るのか分からないというようにちょこんと首をかしげています。まあ、言わなくとも分かるでしょうが相沢さんの反応が普通でしょう。好きな女の子を塹壕掘りに誘う男の子なんて聞いた事もありません。

しかし綾部くんにしてみたらこれが最高のデートの誘い方だという事に間違いはないのです。何故なら、綾部くんは塹壕を掘るのが大好きなのですから。


「あんたの何が嫌ってやる事なす事みんな素の所よ…女の子塹壕掘りに誘うってほんとにどうなの、価値観が違い過ぎるってば…」
「塹壕掘りが好きなら全然問題ないだろ?」
「好きなのは綾部だけでしょ私は嫌なの」


相沢さんはそっぽを向いて綾部くんから視線を外します。相変わらず乙女心なんて全く分からない綾部くんですが、相沢さんが塹壕掘りをしたくないのは理解したようで、少し寂しげにシャベルを地面に下ろしました。そんな憂いを帯びた綾部くんに相沢さんの良心がちくりと痛みます。


「……あ…えっと…あの、つまり…なんていうか…あんたはセンスが問題だと思うの。それ直せば多少はマシになるんじゃない?」
「…じゃあ相沢は他の事なら誘い受けてくれるの?」
「調子乗るなよ」


綾部くんはじっと相沢さんを見つめました。そんな視線になんとなく居心地の悪さを感じた相沢さんは綾部くんと目を合わせようとしません。 それでも綾部くんは相沢さんに向かって微笑みました。


「じゃあ、一緒に首化粧しない?」
「……っするわけないでしょ馬鹿綾部!!」


「馬鹿にしないで!」そう吐き捨てて、酷く怒った様子で相沢さんはくノ一教室へと踵を返しました。どうして相沢さんが怒ったのか…無理もありません。想像してみてください。自分を好きだという男と二人で、首化粧をする光景を。


「……女は化粧が好きなんじゃないの?」


やっぱり綾部くんはちょっぴり、女心を理解するのが苦手みたいです。


05.価値観の違い






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -