世の中酷い就職難である。これといってアピールできる特技のない私は、この就職難の酷い被害にあった。企業の面接を受けても受けてもなかなか内定がもらえないという恐ろしい現実。…まずい、どうするの私。このままじゃニートだよ、いくら今まで適当に生きてきたとはいえそれは流石にまずいんじゃないの。なにより育ててくれたお父さんとお母さんに合わせる顔もないじゃないか。

成す術もなく困り果てていたその時である。私の地元ライモンシティにあるバトルサブウェイの「清掃員求ム」の貼紙を見つけ、駄目元で受けたらなんと採用されてしまったのだ。お父さん、お母さん、清掃員だけど、私就職出来たよ。ここで精一杯がんばるよ。そう思って働きはじめた一ヶ月前。


「あ、ほたる見ーつけた!ねえねえ一緒に遊ぼう」
「クダリさん、見て分かると思いますけど私今仕事中なんですよね」
「えーでもぼくほたると遊びたい」
「ていうかクダリさんも仕事してください。あなたサブウェイマスターでしょう」


冷たくあしらっているというのに、この全身を白で統一された男…クダリさんは何が面白いのかけたけた笑っている。クダリさんは、バトルサブウェイで働く私の唯一の悩みの種である。仕事仲間はおばちゃんやおじちゃんばかりだけど、皆とても良くしてくれるし、もちろん清掃の仕事にも文句なんてない。でもこのクダリさんだけはどうしても耐え難いのだ。

クダリさんはこのバトルサブウェイのダブルトレインとマルチトレインのサブウェイマスターである。ここでバトルが一番強くて立場的にも私とは比べものにならないくらい上で、もしかしたら私の上司の上司の上司以上くらいに偉い人かもしれない。頭悪いけど。そんな立場的には私の雲の上の存在であるクダリさんと私が関わることなんて本来ならなかったはずなのに、彼にたまたま私の唯一の手持ちであるゾロアを見られてしまったのが運の尽きである。ゾロアはイッシュ地方のポケモンだけど極端に個体数が少なく、休憩中に遊ばせていた私のゾロアを見るなりクダリさんは、それゾロア?ゾロアだよねすごい初めて見た君のポケモン?わああかわいい触っていい?と、すごい勢いで喰いついてきたのだ。それ以来、何故か出勤の度こうして絡まれるようになってしまった。うるさいし、仕事仲間のおばちゃんにはからかわれるし最悪である。


「ねえねえダブルのホーム遊びに行こうよー。いいでしょ?」
「良くないです。ダブルのホームは遊び場じゃありません。第一私今日シングルのホーム担当なんで無理です」
「じゃあダブル担当の人に替わってもらえば?」
「無理です」


替わってもらえば?じゃないでしょうにああもうこの人どうすればいいの。本格的に困る…というかうざいと思いはじめたその時、ぴんぽんぱんぽん、と軽快な音がした。放送である。


『サブウェイマスタークダリ、ダブルトレイン挑戦者が二十戦目に入りました。持ち場についてください。繰り返します…』


「クダリさん仕事ですよ」
「うー……分かった、行ってくる。けど!待ってて!」
「は?」
「帰り、一緒に帰ろ!」
「無理です」
「迎えに行くから待ってて」
「無理です」


数十分後、ダブルトレインで二十一戦目真っ最中のクダリさんを余所に、私は定時きっかりに上がり速やかに帰宅した。翌日、何で先に帰ったの!とご立腹なクダリさんに一日絡まれ非常に面倒だったけど、どっちにしろマスターと清掃員の帰宅時間なんか全然違うんだから私は悪くない。そう、悪くない。


01.清掃員と白いサブウェイマスター






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