これの続き
完全に百合。カミツレさんの性格がと
ても悪い。




ほたるが自分から私の唇に口付けた瞬間、勝ったと思った。あの白い悪魔からかわいいこの子を守る事が出来た。だけど当たり前よね、性別なんていう薄い壁、私の気持ちの前では全く役に立たないんだもの。






「え、今日一緒にご飯食べれないの?」
「ごめんなさい、今日は先約があるの。私ももちろん貴女との時間を大切にしたいけど、今日の約束はどうしても外せなくて…」
「ううん、大丈夫!むしろいつも私なんかがカミツレちゃんを独り占めして申し訳ないし…」
「あら、私は貴女が一番大切なんだから、そんな事気にする必要ないのよ」


ライブキャスターの向こうでほんのり頬を染めて照れ臭そうに困ったような顔をするほたるに、思わずうっとりと見入ってしまう。ああ、そんないじらしそうにして、なんて愛らしいのかしら。いつまでもこうして貴女を見つめていられたらいいのに。

そんな事を思っていると、そんな私とほたるの時間を割くように、来客を告げるベルが鳴った。……なんだ、もう来たのね。一度話さなければいけないのは確かだけど、なんて嫌なタイミングで現れるのかしら。


「ごめんなさいほたる、予定より早く客人が来たみたい」
「気にしないで!明日は一緒にご飯食べようね」
「もちろんよ」


最後にほたるの顔をしっかりと目に焼き付けて、ライブキャスターの電源を落とす。玄関の扉を開けると、憎らしい顔と目が合った。ふん…いつ見ても気に入らない顔。


「こんにちはクダリさん、お久しぶりね。急に連絡があって驚いたわ。今日は一体どういったご用件で?」
「……ちょっと話がしたいんだけどいいかな」
「話?…ええどうぞ、上がって」


我ながら白々しい台詞だと思った。この男がここにどんな用件で来たのか、そんな事は手に取るように分かっているのに。でもダメ、それを悟られてはいけない。私はリビングに彼を通し、一応歓迎する素振りを見せて珈琲を入れる。


「ブラックでよかったかしら」
「うん、ありがと。……ねえ、カミツレちゃん、さあ」
「何?」
「ほたるについて、なにか知らない?」
「どういう意味かしら」


常に人から見られる仕事をしている私にとって、探るような目つきに対して少しの動揺も見せずに見つめ返す事くらい簡単だった。好意の微塵も含まれていない視線を向けられる事には慣れていないけど、今の私にとっては苦痛でもなんでもない。…それにしても、野性の勘って怖いわね。


「ほたる、最近ぼくのことぜんぜん興味ないみたい。話をしててもぼくを見てくれてないっていうか」
「あら、あんなに貴方にお熱だったのに、不思議ね」
「…代わりにきみの話をすることが多くなったんだけど、それはなんの関係もないの?」
「さあ?そんな事分からないわ。だって私達元から仲が良いんだもの」


ああ、そんなあからさまに全然信じてないって目して。口の端が上がるのを必死に堪えて、私はあくまでも凛とした態度を貫いた。いつかは気付くと思っていたけど、思ったより早くて驚いたわ。ほんの少しだけ微笑んで彼を見ると、彼も私を見たままぐっと黙り込んでしまった。…あら、もう終わりなの?まあ証拠はないわけだし、私が知らないと言ってしまえばそれで終いだものね。


「ねえ、クダリさん。あまり考えすぎない方がいいんじゃないかしら。もしそんな切羽詰まった顔でほたるに迫ったら、怯えられちゃうわよ」
「……」
「女の子の心は繊細で変わりやすいの。今までが近すぎたのかもしれないし、一度距離を置いてみるのも手ね」


彼は黙ったまま何も返して来ない。上辺だけとはいえ親身にアドバイスしてるんだから、少しくらい反応すればいいのに。………ああ、そういえば彼は私を疑ってるんだから、それは無理だったわね。


「…クダリさん、話ってそれだけ?それなら申し訳ないんだけど私明日も朝早くから仕事があるし、これ以上は勘弁してもらえるかしら」
「……うん、帰るよ。今日のところは」


あら、これだけ言ってもまだ諦めないなんて、案外しぶといのね。でも何時来たって結果は同じ。どう足掻いたってほたるはもう貴方には振り向かないわ。


「ええ、またいつでも来てちょうだい。考えすぎないようにね」
「…うん、そうするよ。ところでテーブルの上の白いバラ、どうしたの?あんなに白が嫌いなカミツレちゃんがめずらしい」
「ああ、それ?気にしないで。ファンの子からのプレゼントよ」


鏡を見なくても、自分の口の端が持ち上がるのが分かった。だって私は女だもの、これくらいのハンデがなくちゃ不公平でしょ?

彼が私に背を向けた瞬間、私はテーブルに飾られた白薔薇をぐしゃりと握り潰した。…ええ、大嫌いよ、白なんて。





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