※高校生設定



高校に進学してからしまったなあと後悔したのは、距離を考えずに学校を選んでしまった事だ。片道一時間と言う距離は、中学の時遅刻常習犯であった私にとって厳しいものがある。いくら行きたい高校がこれといってなかったからって、単に幼馴染みが行くからなんて理由で決めるんじゃなかった、なんて今更後悔しても遅いけど。別に多少の遅刻くらいいいじゃないかと思うかもしれないけど、堂々と遅刻して行く度胸は私にはない。そんな厄介な性格のせいで、毎朝あたしは睡魔と戦っている。…正直これがあと二年以上続くってのはかなり厳しいんだけど、仕方がないよね。半開きの目を擦りながら、私は今日も七時半きっかりに家の扉を開けた。

玄関を出ると、同時に隣りの家からも見知った顔が出てきて思わず頬が緩んだ。奴こそあたしを今の高校に通わせている(いや私が勝手に決めたんだけど)幼馴染み張本人である。


「おはよう典人くん!」
「………はよ」
「ねえ朝練は?こんな時間に家出て大丈夫なの?あ、さては寝坊したな」
「お前と一緒にすんな。今テスト週間だから部活ねえだろ」
「…あ、そういえば」
「はぁ…お前勉強しろよ」
「違うよ今日からやろうと思ってたの」


「結局してねえんだろ」と呆れる典人くんを見て、なんだか無性に笑いが込み上げてきた。さっきはあんな事を言ったけど、やっぱり典人くんと一緒にいるのは楽しい。学校が遠いのは嫌だけど、典人くんと一緒にいたいのは本心だ。私は笑いながらチャリに跨がろうとした…が。その時私はとんでもない事に気がついてしまった。え…?えっええええ!


「典人くん大変!私のチャリパンクしてる!」


なんとあたしの愛車(あれ、チャリだから愛チャリ?)の前輪が、見事な具合にパンクしていてべこべこになっていた。えええ!どんだけ!てか何時パンクしたんだよこれ!


「うわ…ひっでぇ、乗れねえだろこれ」
「これじゃ間に合わない…よし、典人くん後ろ乗せて!」
「は?ふざけんな歩いてけよ」
「幼なじみが遅刻してもいいって言うの!?典人くんひどい!」
「お前乗せてったら完璧俺も遅刻だっつーの」
「なっ…私そんなに重くないから!」


急いで自分の自転車に跨がり走りだそうとする典人くん(ほんとに置いてく気だこいつ!)の学ランの裾を、私は逃がすまいと思い切り引っ張った。あからさまに嫌そうな顔をする典人くんを無視して、私は掴んだ裾に更に体重をかける。


「お願い乗せて!今度うまあい棒三本奢るから!」
「ふざけんな離せ。お前運ぶ労力がうまあい棒三本で補えるわけねえだろ」
「何よケチ!」


確かに後ろに一人乗せるか乗せないかで労力は全然違うから典人くんの気持ちも分かるけど、遅刻しないためにもここで引く訳にはいかない。いや自分勝手な言い分だって分かってるけどさ、見捨ててくとか酷すぎるじゃん!私達何年の付き合いだと思ってんの典人くんの馬鹿!人目も憚らず言い合いを続けていると、ふいに典人くんの家の扉が開いた。


「あら、典人もほたるちゃんもまだ学校行ってなかったの?遅刻するわよ」
「あ、おばさんおはようございます!」
「おはようほたるちゃん。元気ねぇ」
「…おふくろ何で出てきてんだよ」
「ごみ出しよ。あんた持ってってくれないから」


出てきたのは典人くんのおばさんで、私は小さくガッツポーズした。しめた!おばさんなら私すごい仲良しだし、きっと私に助け舟を出してくれるに違いない。私は典人くんの傍から離れて、甘えるようにおばさんの近くに寄った。


「おばさんどうしよう、私のチャリパンクしちゃったんだぁ。このままじゃ完璧に遅刻だよー」
「あら大変。典人、ほたるちゃん後ろに乗せていってあげなさい」
「は!?何勝手な事言って、」
「転ばないように気をつけるのよ。二人とも、いってらっしゃい」


反論しようとする典人くんをきれいにスルーして、おばさんはさっさと家に入ってしまった。残されたのは呆然とする典人くんと、思惑通りになってしてやったりの私。


「…えへ。よろしく典人くん」


満面の笑みを浮かべた私顔を見て、ついに諦めたのか典人くんは溜め息をついて「早く乗れこのバカ」とぼそりと呟いた。ちょっと申し訳ないと思いつつも、遅刻はやっぱり嫌なので、私は急いで自転車の荷物置きの上を跨いだ。ごめんね典人くん、今日は特別にお昼購買のチョコレートデニッシュを奢ってあげるよ。自転車に跨がりながらそう言おうとして典人くんを見ると、典人くんは私を凝視して目を見開いていた。


「ばっ…バカお前、何座ってんだよ!」
「え、むしろ何怒ってんの?」
「乗せてもらう立場で図々しいんだよ!いいから立てよ、乗せねえぞ!!」
「ちぇ、典人くんって短気だよね」
「(当たるんだよバカ気付けバカ)」


なんでか知らないけど怒った典人くんの恐ろしい形相に押しで負けて、結局私はチャリに足を掛けて立って学校まで行くことになった。…乗せてもらう立場で文句言えないけど、いくら駅までの十五分って言ったって立ちっぱはきついんだからね!典人くんの肩に手を置くと、自転車はゆっくりと走り始めた。穏やかな風が頬をくすぐるたび、何故だかとても幸せな気持ちになる。


「典人くん」
「何だよ」
「いつもありがとー。私、典人くんの幼なじみでよかったなあ」
「…調子いいヤツ」






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