仕事を休んでいた五日間、クダリさんとは全く連絡を取っていなかった。(というか実は転んだ時にライブキャスターを壊してしまったので、その間誰とも連絡を取ってない)普段から私がシングルのホームで仕事をしていてもクダリさんはしょっちゅう顔を見せにきていたし、休みの日だってライブキャスターで頻繁に連絡してくる。私がバトルサブウェイに就職してクダリさんと出会ってから、これ程間を開けて会わなかった事は不本意ながら初めてである。…だから、なんだろうか。こんなに妙に緊張するというか、気持ちがざわめくのは。思えば、最近クダリさんの顔を見なかった日ってなかったんじゃないのかな。何故か徐々に執務室に近づくに連れ、鼓動が早く波打っているのが分かる。…嫌だ、私ってばそんなキャラじゃないのに。

ああ、なんだかもやもやする…!そんなネガティブな気持ちを振り切るように夢中で早足で歩いてせいか、私は執務室に着くなりまるで自分の部屋に入るかのようにノックも忘れて中に入ってしまった。しまった、中にいるのはクダリさんとはいえ、執務室は私のような清掃員が気安く入っていい場所じゃないのに…そう思ったところで既に開けてしまったのだからもう遅い。


「すみませ……あれ、」


ところが勢いよく中に入ったはいいものの、執務室には誰もいなかった。ノボリさん、執務室にクダリさんいるって言ってたのに。現場指揮は上手そうじゃないけどやっぱりマスターだし現場に出る事にしたのかな。そんな事を考えながら、無人の執務室になんだか安心したような残念なような、複雑な気持ちになった。


「……え、ほたる?」
「!」


どくり 心臓が、跳ねる。


「わ、やっぱりほたるだ!」


……クダリさん、だ。ぎこちない動きで振り向くと、数メートル程離れた所にたくさんのファイルを抱えたまま私を見ているクダリさんがいた。なるほど、資料を取りに行ってたのか。頭の片隅ではそう冷静に分析しながらも、クダリさんを視界に入れた途端、私の身体はまるででんじはを浴びせられたように固まって、動けなくなってしまっていた。そんな事知るよしもない、いや知った所で気にしないであろうクダリさんは、ぱっと顔を輝かせてファイルを放り投げて私に飛び付いてくる。


「ほたる!ほたる!ほたる!うわあ、すっごく会いたかった!足もうだいじょうぶ?痛くない?」
「ああ、ちょ、ファイルが…!というかいつもの事ながら急に飛び付かないでください!」
「えー、だって五日もほたるに会ってなかったからさみしかったもん」


…クダリさんも、私と会うのが五日ぶりだって、覚えてるのか。ぐりぐりと頭を擦り寄せてくるクダリさんをさりげなく引き離しながら、私はなんとなく今まで感じたことのない変な気持ちになった。


「ほんとはほたるんち行きたかったけどノボリがだめだって。ほたるは安静にしてなきゃだめだからって。ぼく、うるさくしないのにね!」
「え…それ本気で言ってるんですか?」
「それとずっとコールしてたのになんでライブキャスター出なかったの?ぼくすっごく心配してたんだよ!」
「そんな事言われてもあの騒動でライブキャスター壊れちゃったんです。仕方ないじゃ、……」


ないですか、そう言いかけてはっとした。私さっきから、なんで何から何までかわいくない言い方でしか話せないんだろう。クダリさんにお礼を言いにきたのに、こんな皮肉めいた言い方ばっかりじゃ全然意味ないじゃないか。まあ性格だから、多少は仕方ないんだけど…。


「あの…ご、ごめんなさい」
「え。なにが?」
「私、本当はちゃんと、お礼を言おうと思って…来たんです」


しどろもどろになりながらも必死に伝えようとしたのに、当のクダリさんはきょとんとして不思議そうな顔をしている。


「お礼ってなんのこと?」
「え…何って、ゾロアを取り戻してくれた事に決まってるじゃないですか」
「そんなの当然でしょ?ぼくサブウェイマスターだし、そうでなくてもほたるのゾロアが盗られちゃったら取り戻すのは当たり前だし」


クダリさんってすごく不思議な人だ。なんでそんな事平然と言えるんだろう。というかそういえば、そもそもクダリさんはどうして私みたいな無愛想なのにこんなに優しくて気にかけてくれるんだろう。その事で迷惑を被る事もあるけど、そんなの今回の事に比べればとてつもなくちっちゃくて些細な事だ。


「…やっぱり無理です。クダリさんはそう思っていても、私はそんなに風に簡単に考えられません」
「どうして?」
「だってクダリさん、私のせいで危ない目に遇ってたじゃないですか!ミネズミに直接攻撃される所だったんですよ!」
「それがなんでほたるのせいなの?攻撃を指示したのはプラズマ団だし、ほたるが気にすることなんてないよ」
「でも、」


それでも、クダリさんがゾロアのボールを真っ先に探してくれて(これはあくまで推測だけど、あの時私に真っ先に手渡してくれた事から間違いないと思う)、そのせいで危ない目に合ったのは私のせいだ。だってゾロアがプラズマ団に盗られてしまったのは私の不注意で、私が不甲斐なかったせいだから。


「もしかしてほたる、それでさっきから元気ないの?」
「えっ…」
「ぼくがしたくてやったことだから、ほたるにそんな顔されるとぼくかなしい」


優しく頭を撫でられて、鼻先が熱くなり目尻に水分が溜まっていくのが分かる。やだ、もう、まただ。そんな顔でそんな事言われたら、もう何も言えないじゃないか。普段はあんなに子供っぽくてめちゃくちゃな人なのにそういうのってずるいんじゃないの。


「…クダリさん」
「なあに?」
「ゾロアを助けてくれて、ありがとうございました」
「どういたしまして!」


ようやく、ミッションコンプリート。ものすごく嬉しそうににっこりと笑ったクダリさんに釣られて、思わず私もほんの少しだけ笑ってしまった。途端に何故か目を見開いてぱちぱちさせるクダリさん。…え、何。


「そういうふうに笑った顔はじめて見た!ほたる笑った顔かわいい!大好き!」


…ああ、もう、恥ずかしい人!



28.ほだされゆく





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