「ほたるごめんね。クリスマス、やっぱりお休みもらえなかったんだぁ…」


今日は十二月二十四日、クリスマスイブである。どうやらクダリさんは明日のクリスマスにお休みを貰えなかったらしい。顔はいつものようににたついたままだけど、そう言った声は悲しげだった。……うん。明日クダリさんが出勤なのは分かったけど、何でそれを今日も明日も非番である私にわざわざ言うんだ。どう反応していいのか分からなくて、ライブキャスターに出てしまった事を後悔した。


「……はあ、それは残念でしたね。でも別に私に対して謝る理由ないですよね」
「ぼく、ちょっとだけでもってちゃんとノボリに聞いてみたんだよ。でもクリスマスはカップルでマルチトレインに挑戦するお客さんが多いから、ぼくもどうしても出なくちゃいけないって…まあ確かに毎年すごい人だっていうのは分かってるから、仕方ないんだけど」
「話聞いてます?」


いつもの事だけど、この人相変わらず人の話聞かないよね。画面越しとはいえ至近距離で向かい合ってるはずなのに、どうやら自分の都合の悪い話は耳に入っていないようだった。うん、大丈夫知ってたよ。


「ごめんね、クリスマスに一人なんてさみしいよね。あ、そうだ!ほたるもぼくといっしょに出勤する?」
「いえ、私クリスマスは始めから一人じゃなくて家族とゾロアと過ごすつもりでしたけど。なんでそんな一緒に過ごす予定だったみたいな口ぶりなんですか?」
「え、違うの?」
「ていうか逆にどうしてそう思ってたのか聞きたいです」


違うの?って…いやどう考えても違うだろう。私とクダリさんは職場が同じなだけで、クリスマスを一緒に過ごす理由なんて全く見当たらないのにどうしてそうなった。なんなんだ、クダリさんは彼の頭の中の私と約束でも交わしたのだろうか。うわ…頭痛い。


「クダリさん、クリスマスに出勤だなんて本当にお疲れ様だと思いますけど、私就寝時間になったのでそろそろ通信切りますね」
「え、寝るの早くない?」
「クダリさんも明日の為に早く寝た方がいいですよ」
「えーつまんない!明日会えないしもっとおしゃべりしようよーねえねえねえ」
「おやすみなさい」


クダリさんはまだ何か言ってたみたいだけど、相手にしていたらいつまでも切れないので容赦なく通信を遮断した。全く、クダリさんのせいでいつもより就寝時間がかなり遅れてしまったではないか。私はふかふかの布団に潜り込み、ゾロアを抱きしめて早々に目を閉じた。さっさと寝てしまおう。


「………?」


朧げな意識の中、何か窓の外で物音がしたような…気のせいかな。それ以上考える気力は私には残っていなかった。



*





「きゃん!」
「……」
「がうっ」
「………ゾロア、今日は仕事お休みだよ…もうちょっと寝かせて…」
「きゃん!」
「……」
「きゃんきゃん!」
「…もう、そんなに騒いでどうしたの?って、雪……?」


朝、ゾロアの鳴き声で目を覚ますと、窓の外は白一色の雪景色だった。うわあ…すごい積もってる。ホワイトクリスマスだなんて私が生まれてから初めてなんじゃないかな。それどころかライモンシティで雪が降る事自体いつぶりだろう。


「すごいね、ゾロア」
「きゃん!」
「もっと近くで見たい?待って、今窓開けるね、……?」


ゾロアに雪を見せてあげようとして窓を開けると、見覚えのない赤い靴下が窓枠に引っ掛かっていた。……何これ。


「赤い靴下……と、バチュルのぬいぐるみ?」


靴下を持ち上げると、中に首に不器用にリボンを結ばれたバチュルのぬいぐるみが入っていた。え、何これ。何時からこんなものぶら下がってたの?昨日窓開けた時にはこんなものなかったのに。他に何か落ちていないかともう一度窓の外を見てみたけど、手がかりになりそうなものは何もなかった。……あれ、これどうすればいいんだろう。誰かが落としたとか?いやいや、ここうちの庭だし誰が落とすんだ。

私は少し困惑気味にバチュルのぬいぐるみを見た。バチュルかあ…かわいいけどなんでバチュル?バチュルって確かホドモエからフキヨセに行く途中にある電気石の洞穴にいるんだよね。行った事ないし本物は見た事ないけど、確かバチュルってデンチュラの進化前のポケモンだったはず。……ん?デンチュラ?あれ、デンチュラってもしかして。


「…クダリさん?」


なんとなくだけど、そんな気がする。私は急いでライブキャスターを手に取り、クダリさんにコールした。いやまさか、まさかとは思うけども。通信が繋がる音がして、画面には満面の笑みのクダリさん。


「ほたる、メリークリスマス!ねえねえ気がついた?ほんとは自分で渡したかったんだけど…でもちょっとロマンチックだったでしょ?雪もふったし!」


この人、信じられない…。クダリさんときたら、まるで私から連絡が来るのが分かっていたような口ぶりだ。あっけらかんとした声に、何だか毒気が抜かれてしまったような気がした。


「…クダリさん、いつこれを?」
「昨日の夜だよ。じつはと話しながらほたるんちむかってたんだー」
「仕事あるのに何してるんですか」
「だってクリスマスだから」
「しかもこんなに寒いのに夜中に馬鹿じゃないですか」
「いいよ。ほたるのためならばかで」


そう言いながら微笑むクダリさんの笑顔を見て、どうしてか分からないけどなんだかちょっと胸の辺りがむずむずしてくすぐったいような不思議な気持ちでいっぱいになった。ああ、クダリさんってほんと、どうしようもない人だ。全く、バチュルのぬいぐるみだなんて彼らしいではないか。


「…ありがとうございますクダリさん、メリークリスマス」


…明日、クッキーくらいなら作って持って行ってもいい…かな。うん、他意はないけど!





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