「ねえ三木ヱ門、その子の名前はなんていうの?」
「この子はユリコです、ほたる先輩」
「そう…かわいいね」
「はい!」


私がそう言うと、三木ヱ門は嬉しそうにユリコとやらに頬を寄せた。………ふ。やばい、今すぐこの木の塊を壊してやりたい。私は怒りのあまりぶるぶると震える右手を左手でぐっと押さえ付けた。

三木ヱ門がユリコと呼んだのは、彼の所有する火器の一つだ。ユリコだけではなく、彼の火器には一つ一つそれぞれ名前が付いている。何故火器に名前(しかも女の)を付けるのかは全く分からないけど、とにかく三木ヱ門はこの女の名前の付いた火器達を溺愛していた。ユリコだかサチコだか知らないが、かわいいね、なんて当たり前だけど心にもないでっち上げの言葉だった。三木ヱ門は溺愛してるみたいだけど、正直私にはこの木の塊の何処が良いか分からないし、分かりたくもない。たかだか木の癖に三木の柔らかな頬に擦り寄せられるだなんてなんて羨ましいんだ。かわいいのはお前だぞ三木ヱ門。


「本当に火器が好きなんだね。三木ヱ門は」
「はい、大好きです」


うっすら頬を染めてにっこりと笑う姿は愛らしいけど、それがユリコのせいだと思うと酷く腹が立った。せっかく遊びに来たのに、さっきから飽きもせずにユリコの手入ればかり。寛大な私だっていい加減限界である。…いや、本当に寛大な女は木に嫉妬なんてしないと思うけど。


「三木ヱ門」
「なんですか?ほたる先輩」


名前を呼ばれた三木ヱ門はそれはそれは素直にこちらに向き直った。なんの警戒心もない緩みきったその表情が堪らなくて、思わずそのかわいらしい唇にちゅうっと吸い付いてしまった。三木ヱ門は大きく目を見開いて硬直していたけど、私はお構いなしに口内にぬるりと舌を差し込んだ。歯列を舌でなぞってやると、硬直していた三木ヱ門の身体がびくりと揺れる。三木ヱ門の舌を自らの下で探り当て、絡め、吸い付いた。男であるはずの三木ヱ門の口内は甘かった。いや、人間の口内が甘いなんて事はないから、私の思い込みだけど。

夢中で好き勝手に三木ヱ門の口内を物色していると、ふいにごとり、そんな音がしたので視線だけ下に落とす。見ると、ユリコが三木ヱ門の手を離れ、地面に転がっている。私は小さく鼻で笑ってやった。やはり所詮は、ただの木の塊。


「んん…ふっ……」
「ん……ちゅ、」


しばらく舌を絡め合わせてからわざと音を立てて離れてやると、三木ヱ門は面白いくらいに顔を真っ赤にした。目尻にはうっすら水の膜が張っていて、思わずぞくりと身震いする。何この子、本当は女の子なんじゃないの。そうじゃなきゃどうしてそんなにかわいいの食べちゃうぞ本気で。私と彼自身の唾液でべとべとになった口周りが卑猥だった。


「せっせせ、せんっ先輩…!」
「三木ヱ門、顔が真っ赤だよ」
「だ、って…先輩、が…!」
「口をぱくぱく開いて、まるで餌をねだる金魚みたいだ」
「うっ…」


ゆっくりと唇を指先でなぞってやると、三木ヱ門は小さくぷるりと肩を震わせた。ああ、なんてかわいい。


「接吻をねだっているのなら、いくらでもしてあげるよ」






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