※清掃員長編サブマス、アニメサブマスのコラボです。ゲーマスはご自分の理想の声、アニマスは公式声優様の声で妄想してお楽しみください。

*



よし、これは夢だ。

勤務中、ノボリさんに呼び出されたのでマスターの執務室に足を運んで扉を開けると、そこにはノボリさんが二人、そしてクダリさんが二人がいるというありえない光景が広がっていたので私は希望も含めこれを夢だと断定した。そうだ、私は今多分お昼休みで休憩室にいて、居眠りをしてしまったに違いない。いやあやらかしてしまったなあ。心の中で渇いた笑みを浮かべながら、私は開けた扉をゆっくり閉めようとした。…が、それを一人のクダリさん(…いや、クダリさんなのか?)に止められた。止めてください、私は今の目の前にある光景を直視したくないんです。


「ほたる待って!なんで出てくの?」
「私今夢を見てるみたいなんです起きるので邪魔しないでください」
「なに言ってんの起きてるじゃん!」
「…ほたる様、驚かれるのも無理はないと思います。が、話を聞いて頂けませんか」


いつもの仏頂面が少しだけ困ったような表情になったノボリさんに宥められ、結局私は部屋を出ることが出来なかった。現状を理解出来ていない(というかしたくない)私に対して二人が言うには、今私と話しているノボリさんとクダリさんはいつもの私の知っている二人で、その後ろにいるノボリさんとクダリさんは私の知っている二人ではないらしい。…何それどういう事?全然分からない。


「意味が分からないです…」
「無理もありません。とりあえずお二方、ほたる様…こちらの女性に自己紹介をお願い出来ますか」
「はい。初めましてほたる様、私サブウェイマスターのノボリと申します」
「僕は同じくサブウェイマスターのクダリだよ。よろしく」
「いや…知ってますけど…」


今まで喋っていたノボリさんとクダリさんとは別の黙っていた方のノボリさんとクダリさんに、何故か自己紹介された。…いや、なんだこれ。初めまして?なんでそれなりに長い付き合いのノボリさんとクダリさんに改まって自己紹介されてるの?なんだか多少違和感を感じないでもないが(特にクダリさん。なんか喋り方が)、目の前の二人が私の知ってるノボリさんとクダリさんでないなんて、ちょっと信じ難い。まあ何より信じ難いのは今のこの現状だけど。


「ほたる、よーく見て!いつものぼくとノボリじゃないでしょ!」
「よく分かりません」
「まあ見た目は瓜二つですからね…」
「…もしかしてメタモンじゃないんですか?」
「メタモンはしゃべれないよ」
「世の中には喋るニャースがいるって噂ですから、分かりませんよ」
「ドッペルゲンガーという訳ではないと思うのですが、正直わたくし達にも何がなんだか分からないのです」
「はあ……あの、ところで水を差すようで申し訳ないんですが、私は何で呼ばれたんでしょうか?今この状況に私いらないですよね」

「僕が会ってみたいって言ったからだよ」


横から入ってきた声の方を振り向くと、いつものクダリさんではない、もう一人の別のクダリさんがにっこりと笑っていた。いや別のって言ったって、見た目は同じなんだけど…。さっきからわざわざ部屋に呼び出されてこの意味不明な状況に立ち合わされた理由が分からなかったんだけど、どうやらこのいつもとは違うクダリさんが原因らしい。どんなクダリさんでもクダリさんはやっぱりクダリさんであるとしか言いようがない。なんて迷惑な。…ていうか、会ってみたかったって何?


「会ってみたいって…もし貴方がいつものクダリさんじゃないなら、私達初対面ですよね。何で私の事知ってるんですか?」
「僕達のいたバトルサブウェイとこのバトルサブウェイは違う場所みたいだけど…この職務室も僕らノボリとクダリのサブウェイマスターの双子も何も変わらない。君の存在以外はね」
「…は?」
「そこの従業員の集合写真見たんだけど、他は全員分かるのに、僕もノボリも君の事を見た事がなかった。だから何か君が手がかりになるんじゃないかと思ったんだ」
「…はあ、なるほど」


とは言ったものの、微妙である。他は全員知ってるのに私だけ知らないって…何かそれ私可哀相な子みたいになってる。いや、別にいいんだけどさ…。それに期待してくれたところ申し訳ないけど、手がかりなんて持ってないし知らないし私に会うのは検討外れだ。


「ねえ、君なんて言うの?そこの二人とはどういう関係?」
「…名前はほたる、しがないバトルサブウェイの清掃員です。ノボリさんとクダリさんとは同じ職場で働いてるというだけの至ってシンプルな関係です」
「ふーん、そうなんだ。…君、何だか吸い込まれそうな目をしてるね」
「死んだ魚みたいな目って言ってもらっていいですよ。よく言われるので」
「かわいいって意味だよ」


一瞬で身体中に鳥肌が立った。半信半疑だったけど、今のやり取りで私が進行形で話しているクダリさんはいつものクダリさんでない事がよく分かった。まず喋り方が全然違うし、なんかいつものクダリさん以上に苦手な気がする。何て言うんだろ、こう…イケメン臭みたいな。クダリさんなのに。唖然としてもう一人のクダリさんを見ていると、突然いつものクダリさんに思い切り腕を引っ張られて引き寄せられた。ああもう、何も言わないよ。


「ちょっとお前なんなの!?ほたるに馴れ馴れしくしないで!」
「え、君ってほたるの恋人なの?」
「違います」
「なんだ、ならいいじゃないか」
「だめだってば!ほたるも即答するなんてひどい!」


…なんていうか、この二人のやり取り見てると幼少期のクダリさんと青年期のクダリさんが一緒にいるみたいだ。なんでもいいけど揉め事に私を巻き込まないでほしい。


「クダリ、突っ掛かるのはお止めなさい。初対面の方相手に失礼ですよ」
「突っ掛かってなんかないよ、純粋にほたるともっと話してみたいって思ったんだ。というか、ノボリ兄さんも黙ってないでほたると話してみたら?」
「……ノボリ兄さん?」


聞き覚えのない呼び名に何となく瞬きを三度もしてしまった。威嚇をしていたいつものクダリさんも、目をぱちくりさせてもう一人のクダリさんを見ている。ノボリ兄さん…?


「あの…そちらのクダリさんはノボリさんの事兄さんって呼んでるんですか?」
「ええ、私達双子は私が兄ですから。そちらのお二人は違うのですか?」
「ぼくらはどっちが兄とかないよ。ていうか知らないし」
「そうなんだ。僕達全く同じって訳じゃなさそうだね」


ノボリさんの事を兄さんって呼ぶクダリさんなんて新鮮である。…そういえばもう一人のノボリさんはもう一人のクダリさんと違っていつものノボリさんにそっくりだなあ…。今のところ際だって違うところが見つからない。


「ま、ノボリが兄でもぼくはにいさんなんて絶対呼ばないけど」
「わたくしだって嫌ですよ」
「どっちの意味で?」
「どちらも」
「ノボリひどい!」
「貴方も一緒ですよ」

「…ふっ、やはりわたくし達も違う人間のようですね。わたくしもクダリとそういったやり取りをしてみたいものです」

「えっ」
「え!」
「?…どうかされましたか?」
「ノボリが笑ってるー!!」


そう、バトルサブウェイの従業員も仏頂面以外見た事がないであろうノボリさんが、なんと口角を上げて笑ったのである。正確に言うといつものノボリさんとクダリさんのやり取りを見たもう一人のノボリさんが笑ったんだけど、顔も服も同じだから視覚的にはいつものノボリさんが笑ったも同然である。失礼かもしれないけど、純粋にめちゃくちゃびっくりしてしまった。


「ノボリさん、ちゃんと笑えたんですね。笑顔初めて見ました」
「ほたる違う、このノボリはいつものノボリじゃないから」
「あ、そうか」
「…それではわたくしが普段笑わないみたいではありませんか」
「でもノボリ実際笑わないじゃん」
「なんか貴重なものを見てしまった気がします。普段は絶対見れないですから」


もう一人のノボリさんとクダリさんに向けてちょっと皮肉っぽくそう言うと、二人はは同じように口角を上げて笑った。うわ、こうして見るとノボリさんとクダリさんて本当にコートくらいしか大きな違いないんだな。…ていうか、あれ?なんか二人の笑い方がにこり、とかじゃなくてにたり、って感じでなんか少し、怖い。


「ええ、そうでございましょう」
「だってこれは、現実じゃないからね」
「…え?どういう、」
「混乱させて申し訳ありませんほたる様。しかしご自分の体調管理はきちんとしてくださいね」
「そうそう、すごく心配してるよ。僕達も…現実の僕達も」
「ちょ、ちょっとどういう事ですか?意味が分からな、」

「…機会がありましたら、また夢の中で」
「また君に会えるのを楽しみにしてるよ」


更に笑みを深くした口元を見たのが最後、終わりまで言い切る前に突然目の前が真っ暗になって、思考回路がショートした。………え、何これ?


*




「ほたる、ほたるどうしたの!」
「ほたる様!お気を確かに!」

「………う、」

「!気付かれましたか!?」
「ほたるだいじょうぶ!?」
「…え?私何して、」
「そこに倒れてらしたのです、一体何があったのですか!?」


大きな声に意識を呼び戻されて目を開けると、目の前にはノボリさんとクダリさんが一人ずついて、私の顔を覗き込んでいた。倒れてた…って事は、気を失ってたって事だよね。……じゃあやっぱりさっきまでの出来事は夢だったのだろうか。いやでも、あんなに鮮明だったのに。


「…ほたる?どうしたの?」
「やはり体調が優れないのでは…」
「兄さん……」
「え?」
「ノボリ兄さん…?」
「……………は?」



夢か現実か、そして目の前のノボリさんとクダリさんが本物か分からなかった私の口から、自然に「ノボリ兄さん」という単語にが零れた。どうしてそう呼んだかは自分では分からないけど、二人はとにかく驚いたようで零れそうなほどに目を丸くしていた。


「え?なにどういうこと?ノボリ兄さんってなに?」
「なっななな何をおっしゃっているのですかほたる様!わた、わたくしを、にっ兄さんとは…!」
「なんでノボリ顔まっかにしてるの。きもちわるいよ」
「気持ち悪い!?」
「あ、分かった!ほたるぼくのお嫁さんになる夢見てたんでしょ!そしたらノボリ、ほたるのおにいちゃんになるもんねー」
「クダリの方こそ憶測で変な事を言わないでくださいまし!」

「……」


ああ、うん…いつものノボリさんとクダリさんだ。やっぱりあれは夢だったんだな。まあノボリさんとクダリさんが二人いるだなんて夢じゃなかったらものすごい恐ろしいよね。


「それよりもほたる様、倒れていたのに大丈夫なのですか?具合でも悪いのでは…」
「いえ別に…ああ、そういえば昨日は日付を跨いでから寝たんです。睡眠不足だったのかもしれません」


別に具合なんて悪くないし、原因はそれ以外思い浮かばない。もう一人のノボリさんが言ってた体調がどうたらってこれの事だったのか…いや、だからって普通あんな夢見なくない?まあ夢だっただけいいんだろう。……うん、絶対夢だ。多分。


「睡眠不足って、何時に寝たの?」
「十二時半です。七時間程しか寝れなかったので」
「「……」」
「なんですかその顔は。私基本的に八時間から九時間寝ないと持たないんです」
「「…ああ、そう(ですか)」」
「……」


あれ、ちょっと何この私がおかしいみたいな流れ。小馬鹿にされたみたいで少し腹が立ったけど、目の前のいつも通りのノボリさんとクダリさんに私は心底ほっとして肩の力を抜いた。…同時に耳元で低い笑い声が二つした気がするけど、私は気付かないふりをした。





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