ノボリさんとクダリさんに追い詰められ、私からゾロアを取り上げたプラズマ団がへなへなと地面に座り込むのをノボリさんの腕の中で見つめながらぼんやりと、この襲撃事件は終わったんだとまるで他人事のように思った。


「さーて、まずはジュンサーさんたちに連絡しなきゃね」
「既に連絡済みです。間もなく到着するでしょう」
「え、もう?さすがノボリ。仕事はや」
「これで一先ず一件落着ですね」
「えーまだでしょ、ホームもギアステーションもめちゃくちゃだし…こんなんでこれからトレインの運行どうすんの?」
「それは追い追い対処します。それよりもプラズマ団の彼を…まあ逃げる気力もないでしょうが、一応。クダリ」
「分かった。デンチュラ、おねがい」


クダリさんの声に反応して、デンチュラが口から糸を吐いて座り込むプラズマ団を拘束していく。ノボリさんとクダリさんのあれだけのやり取りで指示を理解するなんて、なんて頭のいい子だろう。だてにサブウェイマスターの手持ちを務めている訳ではではないらしい。ふと見たノボリさんとクダリさんの険しかった顔は、いつの間にかすっかり元に戻っていた。(って言っても、正直表情的にはほとんど変わりないんだけど)

デンチュラの糸でプラズマ団が完全に拘束されたのを見て、私は急に肩の力が抜けたように感じた。いっぱいいっぱいだった思考回路も通常に戻ったようで、ようやく周りを落ち着いて見る事ができるようになった気がする。…が、落ち着いたのもつかの間、私はまた取り乱す事になる。


「…ね、それよりノボリ!交代して!」
「交代?」
「ノボリばっかりほたるとくっついてずるい!ぼくもほたるお姫さまだっこしたい、代わって!」
「貴方という人は…」

「…っクダリさん!」
「!?ほたる様、急に動かれてはっ」
「っわ、」
「ほたる危ない!」


ほっとしたのもつかの間、ふと視界に入ったクダリさんの真っ白いワイシャツやスラックスは黒々と汚れていて、私は血の気が引いた。何で?何でポケモンバトルでクダリさんの服が汚れるの?嫌な予感が頭を過ぎる。そう思った瞬間ほとんど無意識にクダリさんに駆け寄ろうとしたのだが、ところがどっこい私は今ノボリさんにお姫様だっこされていたのである。落ちる!と思わず身構えたけど、バランスを崩しながらも私を抱えたまま体制を直したノボリさんと横から支えてくれたクダリさんのおかげで私が下に落ちる事はなかった。だけど私は自分が落ちそうになった事や二人が支えてくれた事なんて一瞬で頭から飛ぶくらい、クダリさんの服の汚れしか目に入っていなかった。


「く、クダリさん、大丈夫ですか…!?服すごい汚れてますけど、まさか怪我とかっ…」
「うん?だいじょうぶだよ。バトル中に砂埃とかで汚れただけだから」
「……、そうですか…」


どうやら怪我はしていないらしい。いつものようににっこり笑うクダリさんを見て、再び強張っていた身体から今度こそ本当に力が抜けていく。よかった、クダリさんが私のせいで怪我なんてしてたら…考えるだけで恐ろしい。


「それより、ほたる。手出して」
「え?」


クダリさんは脱力している私に向かってそう言うと、私が手を出す前に手の平に何か固いものを握らせた。何かと思い手を広げ、私は思わず息を止めた。


「…!これ…」
「うん。ほたるのゾロアのモンスターボールだよ」
「う、嘘…」
「うそじゃないよ。よく見て、自分のボールだって分かるでしょ?…だいじょうぶ、きみのゾロアはこの中にいるよ。早く出してあげて」


無意識の内にモンスターボールを握る手が小刻みに震えた。ドクドク波打つ煩い心臓を落ち着かせようとボールとクダリさんを交互に見たけど、動悸が治まる事はなく、むしろ激しく波打っている。自分が何に怯えてるのか全く分からないけど、怖くて堪らない。でもこのまま呆然としていた所で現状は変わらないのだ。私は意を決して、震える手で恐る恐るモンスターボールの開閉スイッチを押した。ポンッと音をたてて赤い光と共に飛び出してきたのは紛れも無く私のゾロアで、私の目からは治まっていたはずの涙がまたぼろりと零れた。


「っゾロア…!」
「きゃん!」


ボールから出た瞬間私に物凄い勢いで飛び付いてきたゾロアを、しっかりと両手で抱き留める。情けない主人でごめんねだとか、怪我はないかだとか、言いたい事は山ほどあったけど、それが言葉として口から出る事はなかった。私は自分でも情けないくらいにぶるぶる震えながら、無事に帰ってきたゾロアをひたすら力いっぱい抱きしめた。


25.おかえりなさい






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