ぼくは座り込んでいるプラズマ団を尻目に、転がったたくさんモンスターボールの中から目を凝らしてほたるのゾロアのものを探した。もちろん他のトレーナーのボールも後でちゃんと集めるけど、今は早くほたるにゾロアを会わせてあげたい気持ちでいっぱいで他に何も考えられなかった。だってさっきからずっとほたるの泣き顔が頭から離れなくて、ぼくも泣きそうなんだ。


「ミネズミ、たいあたりだ!」
「!シビルドン、避けて!」


戦意を喪失したと思っていたプラズマ団の声にはっとして顔を上げると、ミネズミがシビルドンに突っ込んでいた。鍛えられたぼくのシビルドンはわけもなくその攻撃をかわしたけど、ミネズミは戦意を剥き出しにしてシビルドンを威嚇している。


「…ぼくとバトルするの?ぼく、バトルサブウェイマスター」
「っうるさい!このままのこのこと引き下がれるか!」
「…ふうん。でもぼく早く戻らなくちゃいけないから手加減してあげないよ」
「なめやがって…!ミネズミ、かみくだく!」


指示を受けたミネズミは持ち前のスピードで詰め寄りシビルドンに飛び掛かろうとする。だけどぼくのシビルドンがそんな簡単に技を受けるはずもなく、攻撃はからぶるばかり。プラズマ団はイライラしたように怒鳴り散らしてるけど、ミネズミのせいじゃない。そもそもレベル差がありすぎるのだ。

手加減しないとは言ったもののレベル差のあるミネズミをむやみに攻撃をするわけにもいかず、どう相手をしようかと考えていたその時、見覚えのあるモンスターボールが視界に飛び込んできて一瞬頭の中が真っ白になった。…あれ、あのボールって。ぼくはバトル中なのにも関わらず、思わず我を忘れてボールに向かって走った。だっていつも見てたんだ、間違えるはずがない。でもプラズマ団はそんなぼくの行動を見逃さず、好機と取ったようだった。


「チャンスだミネズミ!サブウェイマスターに直接攻撃しろ!」
「!」


見つけたボールを掴もうとしたぼくは、その有り得ない指示に固まってしまった。うわあ…流石にそれは予想外だなあ。完全に不意を付かれてしまい、避けなければと思うのに身体が思うように動かない。当のミネズミは少し戸惑った様子を見せたけどそれも一瞬で、プラズマ団の指示通りぼくに向かって勢いよく突っ込んできた。シビルドンが慌てたようにこっちに来るのが見えたけど、もう間に合わない。あ、まずいかも。ぼくは無意識に目をぎゅっとつむって身構えた。




「シャンデラ、はじけるほのお!」


突然張り上げられた声と同時、凄まじい業火がミネズミを襲った。ぼくはその爆風で思わず床に倒れ込んだけど、怪我は擦り傷ひとつない。聞き覚えのありすぎる声に急いで身体を起こすと、ぼくの傍にシャンデラが浮かんでいた。


「ポケモンを奪うだけに留まらず、人間に直接攻撃をしかけるとは…たいした正義もあったものですね。クダリ、無事ですか」

「ノボリ!」
「なっ…もう一人のサブウェイマスター…!」


プラズマ団の背後から現れたのは、声で分かったけどやっぱりノボリだった。いつもは微妙なタイミングで出てくるのに、今日は助けられちゃった…って、あれ?ノボリなんか持って………、え?


「あああああ!!」
「な、なんだ!」


ぼくは驚いて声を上げた。つられてプラズマ団も驚いたみたいだったけど、そんな事どうでもいい。ぼくの目はノボリの腕の中でぼくのコートを着てノボリにしがみついているほたるにくぎ付けだった。えええなんで!?なにこれ、なんでノボリほたるの事お姫さまだっこなんてしちゃってるの!


「ノボリずるい!なんでほたると一緒にいるの!?ぼくもほたるお姫さまだっこしたい!しがみつかれたい!」
「貴方はこんな時に何を言ってるんですか!ほたる様は足を怪我しているんですよ!」
「そんなの知ってる!でもお姫さまだっこなんてずるいよ!」
「ずるい?いくらほたる様のゾロアを取り戻す為とはいえ怪我をしている女性を一人にするクダリにとやかく言われたくありません」
「だってぇぇ!」
「一人で突っ走っていたのは貴方でしょう!…とにかく話はそこのプラズマ団をどうにかしてからです」


あんまり納得はいかなかったけど、ここでプラズマ団を逃がすわけにはいかず、ぼくは仕方なく口を閉じた。…ちぇ、ノボリいいなあ。当のノボリは普段から愛想一つない顔を更に険しくさせてプラズマ団を睨みつけていた。うわあ、睨まれてるのぼくじゃないけど怖い。


「…さて、おとなしく降伏してくださると我々としても有り難いのですが」
「っく……お前達、自分のしている事の愚かさが分からないのか!見てろ、今に他の団員が…」
「我々が愚か?戯言ですね。そっくりそのままお返しいたします。…それと、応援を期待しているようでしたら無駄ですよ。ここに来るまでの間に大方わたくしと駅員で捕らえましたので」
「あ、ぼくも何人かやっつけたよ」
「なんだと!?…くそっ!ミネズミ!」
「貴方のミネズミでしたら、先程シャンデラの攻撃を受けて戦闘不能でございます」
「、あ…」
「そーいう事。きみ、もうどうにも出来ないよ」


プラズマ団は青ざめて弾かれるように立ち上がると、踵を返して逃げようとした。だけど瞬時にシビルドン、シャンデラにデンチュラがその行く手を阻む。無駄だよ。ぼくだって逃がす気はなかったけど、今ここにはノボリもいる。たった一人でぼくとノボリを相手に出来るはずないんだから。プラズマ団は仲間が捕まり、手持ちのミネズミも戦闘不能で打つ手がなくなった事に声も出ないらしく、口をぱくぱくさせている。


「…さて、随分と好き勝手してくださいましたね」
「ほんとほんと。ダイヤが乱れるどころの話じゃないよ」
「神聖なるバトルサブウェイでこのような騒ぎを起こした事、悔い改めなさい」
「さーて、これで茶番はおしまい。…逃げられると思わないでね」


プラズマ団は全身から力が抜けたようにその場に崩れた。…そもそも、ここに奇襲をかけたのが間違いだったんだよ。だってここはぼくとノボリがマスターを勤める、バトル廃人のためのバトルサブウェイなんだから。


24.サブウェイマスター






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