クダリさんの背中を見送ってからどれくらいの時間が経っただろうか。私は相変わらずホームの隅でただ小さくなっていた。…ゾロアは無事なんだろうか、クダリさん何処に行ったんだろう。ちょっと心細くなって側にいるクダリさんのデンチュラに寄り掛かって頭を撫でてやると、デンチュラは目を細めて気持ち良さそうな声を出した。…なんかちょっと、かわいいかもしれない。実は今まで怖いって思っててごめん。


「…ほたる様!?」
「あ…ノボリさん」


すると今度はシャンデラを従えたノボリさんが現れた。ノボリさんも私がまだギアステーションに残っていたとは思っていなかったらしく、しばらく呆然と立ち尽くしていたが、はっとしたように私に駆け寄ってきた。


「ほたる様、何故こんな所にいらっしゃるのですか!」
「いや、その…足を捻ってしまいまして…」
「お怪我を!?」


ノボリさんもクダリさんも、自分が怪我した訳じゃないのにリアクションが大袈裟である。ノボリさんは私から長靴を脱がせて、赤紫に腫れた足を見て顔を歪めた。…うわ、私も今初めて見たけどなにこれ気持ち悪い。どうりで歩けないはずだ。


「これは恐らく捻挫していますね。すぐに手当てを、……ほたる様?」
「はい?」
「その目…泣いて、おられたのですか」
「え、」
「涙の跡が」


いつも仏頂面のノボリさんが珍しく目を真ん丸にして私を見ている。恐らく化粧も崩れて酷い顔だからあんまりみないで欲しいんだけど…。流石に恥ずかしくなってデンチュラの身体に顔を埋める。マスカラとかついたらごめん。


「…このデンチュラ、クダリのですね」
「え…分かるんですか?」
「ええ。クダリと会ったのですか?」
「はい、さっき」
「…では、あの馬鹿は、怪我をして泣いている女性を置いて何処かに行ったわけですね」
「え、」


ノボリさんの顔が途端に険しくなっていく。まずい、ノボリさん明らかに何か誤解をしている。クダリさんは私のゾロアを取り戻しに行ってくれたのだ。誤解を解くため、私は急いで簡潔に状況を説明し始めた。


「ノボリさん、違うんです。クダリさんは私の為に行ってくれたんです」
「ほたる様の為?」
「…あ、あの…実は私、ゾロアを、プラズマ団に取られちゃって…それで、クダリさんはゾロアを助けに行ってくれたんです」
「プラズマ団がゾロアを!?」
「はい。…情けないですよね。私、守ってあげられなくて、」
「……プラズマ団…下衆が」
「…え?」
「ほたる様が気に病む必要はありません。こうなったのもわたくし共の不注意です。…辛い思いをさせてしまい申し訳ありません」


…なんか今、ノボリさんから不吉な言葉が聞こえた気がしたけど、気のせいだろうか。いや、なんか怖いから気のせいという事にしておこう。

それにしても、ノボリさんが謝る必要なんて全くないのに本当に律儀な人だ。ゾロアを捕られてしまったのはむしろ私の不注意なのに。また鼻の奥がツンとしてじわじわなにかが込み上がりそうになったその時、いきなり身体が宙に浮き、ぞわりという浮遊感に襲われた。エスパーポケモンのねんりきでもなんでもない、ノボリさんに所謂お姫様抱っこというやつをされたのだ。


「えええええ!?ちょ、ノボリさん!?」
「動くと危ないですよ」
「いやいきなり何ですか!?」
「ほたる様は足を怪我していらっしゃるのです。無理なさらないで下さいまし」


そんな事言われても困る。クダリさんからのスキンシップには慣れたとはいえ、ノボリさんとこんなに密着するのは初めてなのだ。思わず緊張して身体が硬直してしまう。ノボリさんはそんな私を知ってか知らずか、私を抱いたままデンチュラとシャンデラに目配せをしてツカツカとホームを歩きはじめた。急に歩き始めたから、驚いてノボリさんの首に手を回してしまったけど、今はそれどころじゃない。


「ノボリさん、何処に…?」
「クダリの元へ。ほたる様のゾロアも恐らくクダリのいる所にいるでしょう」
「あ、あの、クダリさん一人で大丈夫なんでしょうか」
「ええ。本気になったクダリがプラズマ団のしたっぱになど負けるはずがありません」
「だといいんですけど…」


クダリさんやノボリさんの言葉を信じない訳じゃない。けど、私の心臓はどくどくと激しく波打って静かにしてくれなかった。

ゾロアに、会いたい。


22.救出劇の始まり






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