第二十八話

オレは小夜の部屋を去り、イズナの部屋へと向かった。

久方ぶりに小夜と交えることが出来たが、やはり小夜の気持ちは分からぬままだ。加代に諭されて小夜はオレを好いているのかと嬉しく思ったが、相変わらず小夜はオレなど眼中にないとはっきり言った。
だが、オレは小夜を信じている。例え、今はオレに対する気持ちに気づかずとも、時が経てば…いつかきっと、オレだけを向いてくれるだろう。

しかし、こんな悠長な事を考える間もなく、次の戦の準備を考えねばならない。
今のうちはは千手と比べると、劣勢であることは明らかだ…


オレは色々と頭を巡らせながらイズナの部屋に着くと、内部からイズナの咳き込む声が聞こえ、一目散に部屋に入った。



「イズナ!!大丈夫かっ!?」


「……うん……大丈夫だよ…」



イズナの顔色は益々悪くなっている…。
オレは更に不安が募り、どうすればイズナを救うことが出来るのかと考えたが、結局何もしてやれない自分を情けなく思えた。



「すまない…イズナ……オレは…お前に何も…」


「兄さん……一族を…ちゃんと…守ってね…」



イズナはすっかり弱りきった様子で、うっすらと目を開けながら懸命に話していた。



「それより……姉さんの…誤解とけた……?姉さんはきっと…兄さんの事を……」


「ああ…大丈夫だ。心配など無用だ…」


「良かった……」



イズナは静かに目を閉じると、僅かな吐息を立てて眠り始める…。日に日に容態が悪化しているイズナを見ては、胸が苦しかった。
すると、襖越しにヒカクが戦の会合が始まると伝えに来たが、オレはイズナの事が心配で中々その場から離れずにいると、イズナがオレの手を軽く握り、「オレに構わずに会合に行って」と掠れた声で言った。



「だが…お前が心配だ」


「オレは大丈夫だから……早く行って…」



イズナは少し声を強めて必死に伝えようとしていた。
オレはその姿を見て、イズナのためにも…また、一族を守るために戦に何としてでも勝たなければならないと心を新たにした。
そして、オレはヒカクと共に皆が集まる広間へと向かった。







……やはり、うちはの勢力は衰えていた。

千手の勢力が強まる一方でうちはの戦力が劣勢だという事は自明で、しかも、皆が頭領であるオレに対して不信感を募らせていることは今回の会合でよく分かった。弟であるイズナから目を奪い、欲深く卑しい男だと軽蔑しているのだ。

オレは守るべき一族から疎外されていると感じつつも、千手に勝つために必死で一族に対する気持ちを伝え、オレについてきて欲しいと言った。
それが皆にどう伝わったのか知らんが、オレは千手と戦う前に戦力を上げるため、小国や他の一族を束ねることに決め、その作戦を伝えると皆は賛同した。

会合が終わると、オレは一目散にイズナの部屋に向かった。
かなり弱りきっているイズナを放って置くことは出来ない…。



……その時だった…



…オレが小走りでイズナの部屋に着きかけた時…

…イズナの部屋から小夜の声が聞こえたのだ。




“でも、イズナさん…私は貴方が好きなの…!”



……まさか…小夜が…まだイズナの事を…?いや、そんな事はないだろう…小夜はオレを好いている筈だ……


……オレは二人に気づかれぬように、僅かに開いている襖から二人の様子を伺った。



すると、オレの目の前で小夜はイズナに抱き付き、顔を埋めている。



“御免なさい…!でも、今はこのままでいさせて…!”



イズナは小夜の大胆な行動に驚いて、かなり慌てているようだ。
襖に触れている自身の手が熱を帯び、爪が襖にめり込む。オレは嫉妬の情にかられ、愛しい妻が自分から離れていく気がしてならなかった。


……一族だけでなく…お前まで…オレを見捨てるのか…?



そして、小夜は涙を溜めながらイズナを見つめると…


……オレの目の前で…


イズナに自ら、口付けをしたのだ…




………嗚呼…。



………もう、何もかも終わった…



その時、オレの心の中で何かが一気に崩れ落ちた。

目の前が真っ白になり、何の感情も持てない。


小夜を想い続け、何度も裏切られては傷付けられ、何度も振り向かせようと努力してきたが…



……結局はこんな結末か…。



加代に諭されたが、この現状を見て誰が小夜を信じろと言えるのか。

小夜はオレの事など少しも想っていないのだ。


……ああ、やめだ。

………これ以上考える必要はない。


オレは今まで戦の最中であっても小夜を心配し、想いを募らせていたが、あれは結局、杞憂だったな。


下らん事を考えていたものだ…


つまらぬ女に未練難く想い続けるとは、情けない男に成り下がったものだ…。



オレはその場から離れると、広間に向かい、皆を集めては戦の作戦を立て始める。


先程、会合の際にも作戦は伝えたが、生ぬるい考えを捨てたオレは、戦に対する姿勢が変わった。


今までのオレは甘かったのだ。


小夜を気にかけていた下らぬ時間を戦に当てるべきだった。


……オレにはイズナしかいない…


……イズナは…オレの唯一の…信頼を寄せられる家族だ。


目を犠牲にしたイズナのためにも、オレは必ず勝ち続けなければならない。




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