第三十六話

小夜が産気付いてから、数時間が経過していた。
小夜は産婆と共に屋敷の一室に隔離され、俺はその隣の部屋で、身を案じながら小夜がいる部屋の襖を見つめていた。隣にいる加代は安産の守りを手に握りしめながら、小夜の事を思っているのか、ずっと祈り続けている。
隣の部屋から小夜の悲鳴を聞く度に、俺は居ても立っても居られず、目の前の襖を突き破ってしまいそうになった。小夜の痛みを少しでも和らげてやりたいが、何もできない不甲斐なさに苛立ちを覚える。そんな俺の気持ちを察しているのか、加代は度々俺を慰めた。

「マダラ様、大丈夫ですよ…。小夜様はお強い方ですから…」
「…確かに、気の強さが小夜の取り柄だが、出産となると…」

加代は急に顔を赤くして、「私はそのような意味で申し上げた訳ではないです!」と言うので、俺はふっと軽く笑った。

「御冗談はやめて下さい…。小夜様は今、頑張っていらっしゃるのですから…」

加代は少し眉間に皺を寄せて、怒っている様な素振りを見せた。俺は、加代の小夜に対する忠誠心の高さに感心をしていた。小夜が嫁いできてから色んな事があったが、最初からずっと誠心誠意を込めて小夜に尽くす姿を見ると、これからも、小夜や産まれてくる俺の子を側で支えて欲しいと思った。

俺は視線を変え、小夜がいる部屋の方を見つめた。まだ、苦しみ続けているのだろうか。あの細い身体で、頑張って耐えようとしているのだと思うと、胸が熱くなった。
その時、小夜は部屋中に響き渡るような声で叫び始めた。悲鳴に近い様な言葉にならぬ声だ。

「マダラっ…!!!」

俺の名が聞こえた瞬間、俺は思わず襖に手をかけ、部屋に入ろうとした。しかし、加代は俺を阻止するようになだめ始める。衛生的な面で、危険だと言うのだ。

「小夜、大丈夫か!?辛いのか!?」

俺が襖越しに小夜に話しかけるが、小夜はまともに答えられる状況ではないのか、俺の名を交えながら悲鳴を上げている。
その時、幼い頃に、イズナを出産する時に苦しんでいた母の姿を思い出すと、俺は今の小夜と母を重ねていた。あの時の父は、いつもと同じ様に生活をし、何一つ表情を変える事がなかった。兄弟が多く、慣れていたのだろうが、今の俺には、あの時の父と同じ様に過ごす事などできなかった。

その時だった。聞いた事のない幼い泣き声が、屋敷中に響き渡った。
俺は襖を開け、小夜の元に駆け寄った。

「小夜!!!産まれたのか……!!」

小夜は汗だくになりながら、息を整え、こくりと頷いた。俺は嬉しくなり小夜を抱き締めようとしたが、周りの女中や産婆は産後ゆえ危険だと言い、俺を止めた。そして、俺の元に我が子を見せる。

「マダラ様、おめでとうございます。立派な御子息です。とっても可愛いらしい子です。」

俺は我が子をゆっくりと、胸に抱いた。
腕の中で、我が子は産声を上げている。なんと可愛らしいのだろうか。子を抱くだけで、これ程まで優しい気持ちになれるのか。見ているだけで、笑みが溢れる。今まで感じた事のない感情が胸の奥底から湧き出し、俺の心を満たし始めていた。

「マダラ……私にも見せて…」
小夜は小さな声で俺に言った。
「ああ。小夜、でかしたぞ…男だ。俺の後継ぎとなる子だ。」
「男の子なのね…。マダラのように、強い子に育って欲しいわ…。」

小夜は微笑むと、俺の腕の中にいる息子に触れた。俺は隣の部屋にいる加代を呼び出すと、加代は襖を開けた。すると、加代は目を大きくし、涙を溜めながら俺達を見つめた。唇を震わせ、今にも泣きそうだった。俺は加代に「無事に産まれた」と伝えると、加代は小夜と俺の元に駆け寄り、深々と頭を下げる。

「マダラ様、小夜様…おめでとうございます…!」
「加代、頭を上げて…」

加代は頭を上げると、その場で泣き始めていた。俺と小夜は顔を見合わせ、加代が泣いている姿を見て微笑んでいた。

「加代、泣かないで。貴方にも、私の子供を見て欲しいの。」
「小夜様…」

俺は加代に息子を渡すと、加代は嬉しそうに息子を抱いていた。

「加代、またお前に頼んでも良いか…小夜だけではなく、息子も宜しく頼む。」
「はい、マダラ様…!喜んでお受け致します。」

加代は目を細め微笑みながら、頭を軽く下げた。
加代は俺達夫婦にとって、なくてはならない存在となっていた。小夜と加代が息子を囲みながら談笑をしている姿を見て、俺は改めてそう思ったのだった。
そして、俺は小夜に抱かれている息子を見て、一族をより強大で確固たるものにしようという思いが強くなり、身を奮い立たせていた。


***


小夜が子を産んでから、一ヶ月が過ぎた。
医者から小夜の外出の許可が降り、久方ぶりに息子を連れて小夜と共に、散歩をする事にした。
俺は身支度終え、小夜の部屋に向かった。襖越しに準備ができたかどうかを問うと、小夜はまだだと言った。余りにも遅いので、俺は問答無用で部屋に入ると、小夜は加代に髪を結ってもらいながら、化粧を施していた。加代は俺を見ると一礼をし、場の雰囲気を察したのか、その場から下がった。

「遅いぞ、俺がどの位待っていると思っている。」
「少し位待てないの?男の人と違って、女の人は準備が必要なんだから。」
「フン……早くしろ。」

俺は小夜の隣に座ると、鏡に映る小夜を見た。小夜は真剣な眼差しで、筆で眉を引き、唇に紅を乗せている。美しく装っている小夜の横顔を、俺は膝に肘をつきながら見つめていた。

「……何よ。」

小夜は筆を手に持ちながら、怪訝な顔をして俺を見る。

「……何故、化粧にそこまでこだわる?」

俺は目を細め、少し顔を上げて小夜の頬に指を滑らせる。

「…そんな質問、しないで…答え辛いじゃない。」

小夜は頬を赤らめ、俺から目を背ける。俺は小夜の表情や口調から何を言いたいのかが分かり、小夜の腰に手を回す。

「俺の為か…?」

俺は小夜の顔に自身の顔を近付け、少し揶揄うように言った。案の定、小夜は顔を真っ赤にし、怒った表情を浮かべ、俺を離れさせようと身体を押した。

「…そ、そんな事ないわ!自惚れるのもいい加減にして!」
「お前は化粧等せずとも、充分に可愛らしい顔をしている。」

俺がそう発すれば、小夜は更に顔を赤くする。その反応の良さに、俺は余計に小夜を構いたくなってしまった。

「もう、いい加減にして…!私は今化粧を…」

俺は小夜に迫り、色付いたその唇に触れようとした瞬間、隣にいた息子が大きな声で泣き始めた。小夜は俺から離れ、素早く子を抱く。俺を横目に見ながら、息子をなだめている。何かを言いたそうな目だ。俺は誤魔化すように咳払いをし、部屋の外にいる加代を再び呼び戻し、小夜の世話をするよう命じた。息子が中々泣き止まないので、小夜は加代と共に懸命になってなだめていた。

「まだ泣き止まないのか?」
「ええ。どうしちゃったのかしら…」
「貸してみろ。」

俺は子を抱き、ゆっくりと揺らしながらあやしてみた。子は涙を溜めた目を大きくし、きょとんとした顔で俺を見ていた。そして、目を細め笑い始めた。

「凄いわ…マダラ!この子、凄く上機嫌だわ。」
「フッ、俺の方が上手い様だな。」
「そんな事ないわ…たまたまよ!」

俺と小夜は子を囲みながら、顔を見合わせ笑っていた。我が子が産まれてから、俺と小夜は自然と笑顔が増えた様な気がする。赤子は昼夜を問わず訳もなく泣き始めるので、育てるのは一苦労だが、家族が出来た喜びで、自然と幸せな気持ちになった。
小夜は支度がある程度出来たようで、子を抱きながら外に出ようとしていた。

「重いだろう?俺が抱いてやる。」
「え、いいの…?」

小夜は少し驚いたような表情を浮かべていたが、俺は構わず子を抱き、小夜の背に手を添えて廊下を歩いた。小夜には普段、赤子の世話で苦労をかけている為、俺は少しでも、助けになりたかった。隣にいる小夜は少しぎこちなく歩いていたが、時々、俺の腕の中にいる子に気を配りながら、自然と歩み始める。
俺達は屋敷の玄関を出ると、里の中心部の方角へと歩き始めた。若葉が芽吹く頃になり、青い空が広がっており、心地の良い風を感じる。

「ねえ、マダラ…最近、里のお仕事は上手くいっているの…?」

小夜は俺の服の裾を少し摘みながら言った。

「…ああ、上手くいっている。どうした…?」
「最近、家に帰ってくる時、凄く疲れている顔をしていたから…。私はこの子の世話で必死で、貴方の事気にかけてなかったから、心配だったの。」

小夜は不安そうな表情を浮かべて、俺を見る。俺は小夜に心配をかけたくなかったので、誤魔化すように笑みを浮かべ、語りかける。

「……お前が案じる必要はない。気にし過ぎだ。」

俺がそう言うと、小夜は少し安心していた。

「マダラ…噂で聞いたんだけど、貴方がこの里の長の候補に挙がっているって聞いたわ。」
「…ああ、そうだ。」
「まぁ、凄いわね…!」

小夜は嬉しそうな表情を浮かべていた。その表情を見て、詳細をあまり伝えたくはなかった。小夜の期待を裏切る様な事はできない。
暫くの間、こうして談笑をしながら歩いていると、いつの間にか里の中心部に俺達は着いていた。
以前とは異なり、活気付いた里の姿を見た小夜は目を輝かせながら周囲を見渡している。

「凄いわね…!こんなにも発達していたなんて!」

母になったとは思えぬ程に、小夜は娘の様にはしゃいでいた。それもその筈で、幼い頃から大名の娘として屋敷に篭ってばかりの生活を送っていた小夜にとっては、このような世界は真新しく思えたのだろう。

「あまり、はしゃぐなよ。お前の身体はまだ万全ではないのだからな。」
「ええ!分かっているわ!」

道端に連なっている屋台に並んでいる商品を小夜は興味津々に見ていた。俺は子をあやしながら、その愛らしい姿を少し遠くから見つめていた。

「そこの可愛いお姉ちゃん!あんたには、これが似合うよ!」
「素敵な着物ね…!」

若い男が小夜に声をかけ、着物を見せている。小夜はまんまとその男の誘いに乗り、着物を見ていた。

「あんた、とっても似合ってるよ。元々可愛い顔してるからかな。」
「そんな…」

男は小夜に着物の羽織を着させ、いやらしい顔で小夜を見ていた。小夜は少し顔を赤らめ、男を見ている。その二人の姿を見た俺は苛立ちが止まらず、小夜の元に歩み寄り、男の肩を持った。

「貴様……小夜に触れるな。」
「なんだよ、あんた。もしかして、この子のアレかい?」
男は下賤な笑みを浮かべながら俺を見る。
「うるさい。小夜、もう行くぞ。」
「ええ…」
「うわっ、おっかない顔をした男だな。あんたも大変だな。」

男は再び小夜に触れようとしていたので、俺はその男の腕を持ち、その場で捻り倒した。その瞬間、周りにいた人々が集まり、その場が騒然とし始めた。そして、何人かの者達が「あれは、うちはマダラじゃないのか」と口にしていた。

「貴様、二度と小夜に触れるな!」
「ひぃ……!」
男は悲鳴を上げ、尻餅をつきながら慄いていた。
「マダラ…もう、いい加減にやめて!」 

小夜が俺と男の間に立ち、止めに入った。周りが騒然としていたので、俺は「行くぞ」と小夜に声をかけ、手を握り、群がる人々の合間を縫ってその場から離れた。

「マダラ…痛いわ!離して…!」

小夜は何度も俺の手を振り解こうとしていた。俺は中々苛立ちが収まらず、暫く歩いた所で立ち止まると、小夜の手を勢いよく離し、小夜の方へと身体を振り向いた。

「小夜、何故俺が怒っているのか分からないのか…?!」
「何なのよ!着物を眺めていたら、駄目だって言うの?!」

小夜は剣幕な表情で俺を睨んでいる。俺は小夜の鈍感な感情に益々苛立ちを覚える。

「お前は…あの下品な男と会話をして、頬を赤らめていたな。何故、見知らぬ男にあの様な顔をする?お前は俺の妻だという自覚はないのか?」
「…そんな顔はしていないわ!何よ、大体…貴方、覗き見してたの?!気持ち悪いわね!」
「なんだと…?!」

中々食い下がらない小夜に俺はより感情が掻き立てられ、俺は思わず小夜の肩を握った。
その瞬間、腕の中にいる子が大声で泣き始めた。俺と小夜は慌て始め、なんとか子をなだめようとする。

「よしよし、いい子ね…」

小夜は子にあやしつけると、子は泣き止んだ。俺は「すまない」と小夜に謝ると、小夜は俺を見つめ、少し目を逸らしながら「私も悪かったわ。」と言い、謝っていた。
俺達は暫くの間、木の下で互いの瞳を見つめていた。静かに温かい風が吹き、さあさあと揺らぐ新緑から漏れ出る陽射しがが俺達を照らす。
俺は思わず、小夜に口付けをした。
小夜は少し驚いていたが、笑みを浮かべ、俺の肩に手を置きながら背を伸ばし、俺に口付けをした。
互いに顔を近づけ合いながら、俺達は微笑み合う。この甘いひと時は、俺達に幸せを訪れさせる。

「そこにいるのは、マダラではないか!」

その時、遠くから柱間に似た声が聞こえ、俺と小夜は声のする方へと振り向く。やはり、声の主は柱間だった。手を大きく振り、此方へと向かっていた。小夜は恥ずかしさからか、子を抱きながら俺の元から少し離れた。

「仲睦まじいな!羨ましいぞ!」

柱間は俺達の側に来ると、俺の背を叩き、豪快に笑っていた。小夜は膝を少し折って腰を落とし、柱間に挨拶をした。

「おお…この女子がマダラの妻だな。噂に聞く通り、美しい女子だな!」
「勿体なき御言葉、ありがとうございます。」

やはり大名家の出身であるからか、小夜は礼儀よく会話を交わしていた。普段の姿とは異なる一面を見た俺は、改めて小夜を妻にして良かったと思えた。

「おお…この子がマダラの子か!しかも、男か!良い後継者が生まれて良かったな!」

柱間は小夜の腕の中にいる子に気付くと、感嘆の声をあげた。柱間の言葉を聞いた小夜は嬉しそうに微笑んでいる。

「まあな。うちはを統率できる程の力を、俺が身に付けさせてやる。」
「これは子煩悩な父親が誕生しそうだな、小夜殿。」
「ふふ、そうですね。こう見えても、マダラはこの子の世話を沢山してくれるんです。とても助かっているんです…」

小夜は俺を真っ直ぐに見つめながら、柱間に言った。小夜の言葉を聞き、俺は内心ではとても喜んでいたが、柱間がある手前、誤魔化すように咳払いをした。

「良い妻を持ったな…マダラ。」
「ああ。」

柱間は笑みを浮かべた後、少し真剣な表情に変わり、俺を見た。その表情から何かを察した俺は心づもりをした。

「マダラ…火影の件だが明後日、投票の結果が出るらしい。」
「…そうか。」
「マダラ…!もし、万が一の事があれば、俺は…」
「何度も言っているが、火影はお前が決める事ではない。心配は無用だ。お前は何が言いたい?」

俺は柱間に鋭い視線を向け、柱間の言葉を遮るように言った。柱間は何かを言いたそうにしていたが、俺の雰囲気から口を吃らせる。

「火影って…この里の長の事ですか…?」

小夜は俺と柱間の間に入り、柱間に聞いていた。

「…そうだ。火影はこの里の長で、もし、その長に選ばれれば、あそこに見える岩に火影の顔を彫る事になる。」

中々言えずにいた柱間に代わって、俺が小夜の質問に答えた。指を指した先には、この里で一番大きな岩が聳え立っていた。小夜はその岩を見つめると、目を大きくし、驚いた表情を浮かべる。

「まあ…!あんな所に、顔を彫るの…!」
「ああ、そうだ。…小夜、疲れてはないか?そろそろ屋敷に戻ろう。」

俺はこの先の話をしたくはなかったので、小夜の手を取り、柱間の元から離れるようにして屋敷の方角へと歩み始めた。

「おい、マダラ…!」

柱間は俺を呼び止めるが、俺は構わず歩み続けた。小夜は少し動揺していたが、柱間に一礼をし、俺に連れられながら歩む。

「マダラ…もう少しゆっくり歩いてちょうだい…!」

俺は無我夢中になって歩いていると、ふと、小夜の声が聞こえ、立ち止まった。

「すまなかった…。」
「どうしちゃったの…?柱間様とも、あんな別れ方しちゃって…」
「いや、何でもない。お前が気にする事ではない。」

小夜は首を傾げ俺を見ていたが、表情を緩め、先程見ていた岩の方へと視線を変える。

「もし、貴方が火影に選ばれれば、あの岩に貴方の顔が彫られる事になるのね!」

小夜は瞳を輝かせていた。その姿を見た俺は、火影への執念を再び燃やし始めていた。もし、火影に俺が選ばれなかったら、小夜はどのような顔をするのだろうか。幻滅をするだろうか。情けない姿だけは小夜に見せたくはない。俺が選ばれ、小夜の喜んだ姿を見たいーー。

「必ず、一族の為にも、お前や子の為にも…俺は火影になってみせる。」

俺の真剣な面持ちを見た小夜は目を見張っていたが、嬉しそうな瞳で俺を見つめた。

「頑張ってね…マダラ!応援しているわ…!」

俺は小夜の頭を撫でると、手を結びながら屋敷へと向かった。

***


 久方ぶりに外出をした私は、その晩、早めに夕食と湯浴みを終え、自室で休んでいた。

加代に布団を敷いてもらい、子供を寝かしつけながら、横になった。母乳を与えて、お腹が一杯になったのか、すやすやと眠っている。子を見ていると、目元がマダラに似ていると思った。愛しい我が子を見ていると、自然と笑みが溢れる。白い頬に鼻を近づけてみると、甘くて独特な匂いがした。余りの愛しさに、私は我が子の頬を優しくつついたりして、一人で遊んでいた。

「小夜…入ってもいいか?」

その時、襖越しからマダラの声がしたので、私は慌てて起き上がり、「入って良いわよ」と返事をした。
マダラは襖を開けて、部屋に入った。マダラも湯浴みを済ませたのか、着物に着替えていた。

「寝たのか?」

マダラは子供の寝顔を見ると、優しい表情を浮かべながら言った。

「ええ。すっかり、寝てしまったわ。」

マダラは私の隣に座ると、暫くの間子供を見つめていた。その瞳は、父親らしく慈愛の情で満ちていた。すっかり父親らしくなったマダラを見て、私は感心をしていた。

「…どうした?」

私がずっとマダラを見つめていたものだから、マダラは不思議そうに私を見た。

「マダラの優しい表情を見ていたら、なんだか安心してしまって…。」
「小夜……」

マダラは息がかかってしまいそうな位に顔を近付けると、腰に手を回し、横から私を抱いた。

「……たまには、俺にも構ってくれないか?」

私は急に顔が赤くなってしまった。マダラの瞳は情熱に満ちており、私を逃さぬ様に見つめる。

「どうしたの…急に…」
「この一ヶ月間、ずっと子に付きっきりだっただろう?しかも、戦が終わってから、お前を抱いていない…」
「えっ…それはそうだけど…」

私は次第に鼓動が早くなるのを感じていた。マダラの真剣な眼差しに、目が眩みそうだった。
そして、徐々にマダラは顔を近付け、口付けをした。その口付けは、とても情熱的で官能的なものだった。私の上唇と下唇を交互に何度も挟み、息が吸えないほどに互いの唇を交えさせる。

「っ…マダラ…」
「小夜……今夜はお前を抱きたい。」

ようやく口付けが終わったと思いきや、マダラはすかさず私に告げた。マダラのその言葉に、私の心はきゅっとした。感情の赴くままに、徐々に身体は火照り出す。
私はマダラを欲していた。自身の身体をマダラに捧げ、全てを満たして欲しいと思った。

「マダラ…愛しているわ。私も貴方と…結ばれたい…」

マダラの着物を握りしめながら、私は愛の言葉を口にした。その言葉を聞いたマダラは目を大きく開き、嬉しそうな表情を浮かべる。

「…小夜…俺もお前を愛している。また子を産んでくれ…」

マダラはそう告げると、再び口付けをした。私もその熱い口付けに応えるように、首に手を回し、マダラの唇を逃さなかった。熱い吐息を交えながら、私達の感情は高ぶり、身体を重ねる。


そして、いつの間にか…部屋を灯していた明かりは消え、甘く濃密な時を迎えようとしていた。


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