第十一話
日が沈み始め、辺り一面に橙色の光が差し込む。周りの田畑に映し出される夕焼けが美しい。橙と紫を混ぜ合わせた様に彩られた空を飛ぶ鳥は森へと帰って行く。
私達は畑が一面に広がる道を人目に触れられぬ様ひっそりと歩き続け、今日催される宴会場へと向かっていた。
私は以前と比べて、緊張をすることが減るようになった。マダラ様に褒めていただいてから、少しずつ自信がつき、今では心に余裕を持てるようになった。そう考えると、マダラ様は私の中でより特別な方に思えた。


千手一族の邸宅に着いた頃には、辺り一面が暗くなっていた。正門から入るのはやはり躊躇して、裏手からまわろうとすると、千手一族であると思われる人が私達に正門から入るように促した。親切な応対だった。このような待遇をされたことが今まではなかったで、少し驚いた。そして、屋敷に上がり廊下を歩くと、千手一族の人々は通り過ぎる度に丁寧に挨拶をしてくれた。温かい雰囲気に心が休まる。

「とても良い雰囲気ね。」
「今までにこんなに良い待遇を受けたことなんてないわ。」

姉さん達も、この待遇には驚いているようだった。屋敷の雰囲気から察すれば、柱間様はお優しい方なのかもしれない。どのような方なのだろうかと、より興味が沸いた。
私達は女中さんたちに案内された部屋に通されると、宴会に向けて化粧やら着物を着付けたりと、準備を始める。

「さすが千手一族ね。」
「本当に大きな部屋ねぇ。」

姉さん達は部屋を見渡す度に感嘆する。芸妓のために充てがわれたと思えない程の部屋の広さだった。
私は準備を終えると、マダラ様からいただいた簪を胸元から取り出し、じっと見つめて心を一つにしていた。

「小夜、それは誰から貰ったの?」
「綺麗な簪ね。」

私はこっそり見ていたが、姉さん達に気付かれてしまった。

「……マダラ様からいただきました。」
「あら、そうなの!素敵ねぇ。」
「羨ましいわ。」

姉さん達が羨ましそうに見るものだから、少し恥ずかしくなって、私は次第に頬が赤くなりうつ向いてしまった。暫くの間私達が談笑していると、女中さんが宴会場に行くよう伝えに来てくれた。
私はマダラ様からいただいた簪を胸にしまい、宴会場に向かった。

私達は女中さんに招かれた部屋に着き、襖越しに「失礼致します」と一言告げ、部屋の中に入った。
内部を見てみると、大勢の千手一族の人々が集まり、お酒を片手に持ちかなり盛り上がっている様子だった。
私は姉さん達に連なるように背後に並び、頭を下げ一礼をする。

「この度はお招きいただき有難うございます。今夜はごゆっくりお楽しみ下さい。」
「おお、楽しみにしているぞ。」
「兄者、そんなに身を乗り出すな……」

ーーあの方が千手柱間様…?

私は少し頭を上げて、この宴会場の中心部に座り、皆から取り巻かれている人物を見つめた。あの方が千手柱間様ーー思っていた雰囲気とは異なり、とても優しい風貌をした方であった。一方、柱間様の隣にいらっしゃる弟君の扉間様は少し恐そうな方だと思った。

私達は挨拶を終えると、順番に舞を披露した。
和やかな雰囲気で緊張をすることもなく、舞をすることができた。千手一族の人々は、本当にお優しい方々で舞をしていて心地が良かった。
私は舞を終えると、順に酌をしていた。千手の方々は私達の体に触れたりせず、普通に接して下さったので嬉しかった。そして、私は柱間様の酌をすることになり、柱間様の隣に座る。

「柱間様、失礼致します。」
「おお、酌をしてくれるのか。嬉しいぞ。」

柱間様は私を見て笑みを浮かべると、優しく対応をして下さった。柱間様の優しい姿に、私は自然と笑みがこぼれた。

「さっきの舞は素晴らしかった。初めて見たから少し驚いたぞ。」
「ありがとうございます。柱間様にお褒めの言葉をいただくなんて…私は果報者です。」

柱間様は自然に接して下さるので、私も緊張することなく普通に会話をすることができた。すると、隣にいらっしゃる扉間様が怪訝な顔を浮かべ、盃を持ちながら手をすっと伸ばす。

「おい、オレにも酌をしろ。」
「あっ!はい、今参ります。」
「扉間、もう少し優しく接することが出来ないのか。」
「黙れ。大体、何故兄者だけに酌をする。芸妓なら、俺にも酌をしろ。」
「なっ…!扉間、女子になんて事を言うのだ。可哀想ぞ。」

柱間様は私を間に挟みながら扉間様に説教をするが、一方の扉間様は顔を背けて無視をする。聞き入れない扉間様に柱間様は余計に感情が高まってしまい、収集がつかなくなってしまった。

「すみません……私が話し込んでいたばかりに。」

私は申し訳なくなってしまったので、二人の会話に入る。

「いや、話しかけていたのは俺ぞ。扉間がケチくさくてな、すまないな。」
「兄者!それはどういう…」

扉間様と柱間様は再び、口論をし始めた。私は居た堪れくなり、扉間様の盃に思わずお酒を注いだ。

「……フン…初めからそうすれば良かったのだ。」
「……すみません。」
「扉間!何故女子にキツく当たる!お主、こちらに来い、扉間は恐い男だ。近寄らない方が身のためぞ。」

するとまた、扉間様と口論をし始めるので、私は口元に手を添えて堪える様に少し笑ってしまった。

「おお、その顔も素敵ぞ。」
「……ありがとうございます。」

柱間様は私の顔を見つめる。率直に褒めて下さるので、私は少し戸惑ってしまった。

「お主、名はなんという?」
「……夕顔と申します。」
「夕顔か!良い名だ!」

私は扉間様の酌を終えると、柱間様に酌をした。柱間様とは会話が自然と続くので、私も楽しく過ごすことができた。

ーーこの方が本当にマダラ様と敵同士だなんて…。

私は酌をしている間、ふとそう思うと少し悲しくなってしまった。

「夕顔、オレはお前と話すのが楽しい…本当に良くできた女子だ。」

私は思いも寄らない御言葉をいただいたので、嬉しくなった。私自身も柱間様と話すのが楽しかったので、本当に忍一族の頂点を極めようとしている方だとは思えない程だった。
その時、柱間様は私に身体を近付けると、頬を赤らめながら私を見つめた。

「……夕顔…その……今夜…は暇か……?」
「……えっ……」

私は驚いて、言葉が出なかった。まさか柱間様からそのような誘いがあるのは思いも寄らなかったので、動揺してしまう。マダラ様以来、男性からの誘いはなかったので、戸惑ってしまった。しかし、私の仕事はそちらの対応もしなければならない。断ってはいけないのだ。
私は暫くの間黙り込むと、頭の中で考えていた。
心の中では断りたいと思っていた。
この体はマダラ様だけに捧げたかった。でも、私は断れる身分ではないのだ。覚悟を決めなくてはいけない。

「……はい。空いております……」
「そうか……では、今夜はオレの部屋に……来てくれるか……?」
「かしこまりました…。」

私は柱間様からのお申し出に承諾した。
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