第十話
約一ヶ月が経った。
この間、私は日々練習に励んでは宴会に招かれ、芸を披露していた。しかし、私はマダラ様に会って以来、他の男の人には身体を求められる事はなかった。触れられたのはマダラ様のみだと思うと、想いが募っていく一方だった。

マダラ様は今、何をしていらっしゃるのだろうか。遠い所で、戦っていらっしゃるのだろうか。深い傷を負っていないだろうか……

私はどんな時でも、マダラ様が心配だった。
自室の小さな窓から見える遠くの景色に、マダラ様への想いを馳せていた。
どんな些細な事でも良いから、マダラ様の事が知りたかった。
あの日以来、私は宴席に出る時と芸の練習をする時以外は、大半の時間を自室で過ごしていた。あまりにも部屋に篭っていたので、後輩や姉さん達に心配される程だった。

ある日、私はいつもと変わらずに芸の練習を終え、廊下を歩いていた時に、襖越しから姉さん達の声が聞こえた。

「また、ここらで戦が始まるらしいわよ。」
「へぇ。そうなの…。どこの忍一族なの?」
「千手一族とうちは一族ですって。」
「まぁ……。」

その瞬間、私はマダラ様の身は大丈夫なのだろうかと思い、勢いに身を任せて部屋を無断で開けてしまった。

「小夜!無断で入っては駄目でしょ!」
「すみません。……でも、その話をもっと知りたくて…!」

姉さん達は無断で入った私に少し怒っていたが、私が嘆願すると姉さん達は許し、詳しく教えてくれた。

「……そうなんですか…。あの…マダラ様は…御無事ですよね…?」
「当たり前よ!あの方は千手柱間様と同じ位にお強いんだから。」

私は姉さんの言葉を聞いて、少し安心をした。マダラ様が無事なら、それで良いと思っていた。

「小夜、練習も程々にしときなよ。あと、あの日以来、マダラ様の事が頭から離れられないんだろうけど、本気になっちゃいけないよ。」
「…………。」

姉さんは私をじっと見つめて言った。自分でも、姉さんが言った事は分かっているのに、この想いは制御できない。

「マダラ様は、うちは一族の頭領なのよ?私達のような芸妓に、本気になるわけがないよ。正直に言わせてもらうけど、所詮は遊び相手にされたのだと、思いなさい。」

姉さんから発せられる言葉の一つ一つが胸に刺さり、今にも泣き出してしまいそうだった。
そんな訳がない。あの夜に、私とマダラ様は愛を誓い合った。あの時のマダラ様の御言葉に嘘はなかった筈だ。
私は顔を俯かせ、膝に乗せていた手をぎゅっと握りしめ、溢れそうになる涙を堪えていた。頭の中で嘘だ、嘘だと一所懸命に言い聞かせていた。

「現実はそうなんだよ、小夜。あんたはまだ若いから…本気になったら、辛いんだよ。」

私を労るように、姉さん達は私が泣き止むまで背中を撫でてくれた。しかし、私はまだマダラ様を信じていた。直接、マダラ様から「飽きた」と言われない限り、私は諦める事ができなかった。
それ程まで、私はマダラ様をお慕いしていた。

――その晩、私はマダラ様からいただいた簪を眺めながら、深い眠りについた。

***


朝になり、後輩が用意した朝御飯を食べると、姉さん達と共に練習場へ向かい、私は朝から芸に励んでいた。
昨日の姉さんの言葉はあまり考えないように、無心で練習に励んでいると、楼主が私達を集め始めた。

「今夜、お前達は千手一族の宴会に招かれた。心して練習に励め。」

私達は一斉に返事をすると、今夜に向けてどのように披露するのか構成を練り始めた。部屋の中心で姉さん達が話し合っている一方、その時の私は、少し考え事をしていた。

千手一族は…確か…うちは一族と並ぶほどに強いと有名な一族では?
千手柱間様はマダラ様と同じくらいに強いお方、どんな方なのかしら?
もしかしたら、宴席でマダラ様の事を伺う事ができるかしら…。

千手柱間という人物に、私は徐々に興味を持ち始めていた。
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