猫の何がいいの、と清光は言う。 自分だって普段は縁側に寝転びながら、寄ってくる野良を可愛がっているというのに。今は私の膝の上に寝転ぶ権利を、手のひらで撫でられる権利を奪っているこの野良たちに思い切りヤキモチを妬いているらしい。むすりと子供みたいに尖らせた唇から発せられた冒頭の質問に、私はクスリと笑って答えた。 「清光に似てるところかな。」 気分屋で、ちょっぴり怒りっぽくて、ツンと背中を向けたかと思えば、気付いた時には同じ布団に潜り込んでくる。初めましての人には警戒心が強くて臆病だけど、愛され上手でみんなに可愛がられる、そんな野良たちは、清光にそっくりだった。私のいとしいいとしい加州清光に、そっくりだった。 予想だにしていなかったのか、「は、はあ!?」なんて驚いた声を上げる清光の耳は真っ赤に染まっている。 「大丈夫、うちのにゃんこは清光だけだから。」 「……喜んでいいのかフクザツなとこだけど…、ま、しょうがないから飼われてあげる。飼うからにはちゃんと可愛がってよね。」 「そりゃもうこれでもかってくらい。」 にゃあ、と一匹の鳴き声を合図に庭を去る猫たちには、門限でもあるのだろうか。夕日に向かって去っていく野良を見送りながら、彼に向かって手を伸ばした。 「さ、夕飯の時間だ。」 そっと重なってそれから、絡められる指先がなんだかくすぐったい。本当の本当に彼が猫であったなら出来なかったこと、それが出来るのが、なんと幸せなことか。清光があの野良たちとは違うところ、それはこうして手を繋げること。それから、 「アイツら毎日気ままそうでいいよねー」 「…残念ながら清光が野良を満喫出来る日は一生来ないと思うけど、大丈夫?」 「…ったく、そんな答えのわかりきった事聞かないでよね。」 この家が彼の帰ってくる場所だということ。 気まぐれだけれど寂しがりな猫ちゃんが、いつまでも笑っていられますように。そのための場所を作るのがきっと、大事な大事な、私の役目。 (160305) . |