さあそろそろ眠ろうかとベッドに潜り込んだとき、枕元の携帯が存在を主張するかのようにぶるぶると震える。くっつきそうなまぶたをこすりながらそれを手に取ると、画面に表示されるは、彼の名前ーー向日岳人。同じ商店街に店を構える親を持ち、生まれてからこれまで幼馴染として過ごしてきた3人のうちの1人。携帯を持ち始めた時に一番最初に登録したのだって彼の名前だし、(二番目はジローで、三番目が宍戸。)(ただの名前順なのに「俺が一番上!」ってジローが喜んだりして)こうしてこの待ち受け画面に名前が表示された回数も、家族と肩を並べるだろう。
半分眠っていた脳は急速に覚醒させられて、もしもし、何故だか少し震える声で電話を取った。

「おー、悪い、遅くに」
「いや、大丈夫だよ。どうしたの?」
「あのさ、外、出てこれるか?」
「……大丈夫、だけど、」

じゃ、まってる。そう言って直ぐに途切れた通話。数分にも満たないその会話が、やけに耳に残って、心臓の音を速くする。だって、わたしの勘違いじゃなければ、岳人の声も、少し震えていた?それが何故かなんてわかるはずもないのだけれど、けれどもなんとなく、なんとなく心がそわそわと落ち着きをなくす。眠っている家族を起こさないよう、忍び足で家を抜け出せば、彼のもとへと走ってゆく。辿り着いた先にいたのは、男の子にしては小柄な体をくるりと丸めて寒さに耐える向日だった。「向日!」と名前を呼ぶと、くるりとした瞳がこちらをむいて、そうしてほんの少し細められる。いつの間にそんな表情するようになったの、きゅうっと心がしめつけられて、それでも平静を装おって、何かあった?なんて聞いてみようか。眠る前に眺めた満月。吸い込まれそうなくらい大きくて、神秘的な其れを見つめながら、今日は何かが起きそうな予感がしていた。あのさ、そう言って開かれた向日の口から紡がれた言葉は「好きだ。」って、たった三文字。それは、私自身も、ずっとずっと秘めていた気持ち。

「なんか、今日、言いたくなった」

街灯に照らされた向日の頬は朱色に染まってゆく。それはきっと、私も同じように。私もだよ、そういって笑って見せれば彼の瞳はまあるくなって、そうして嬉しそうに、子供みたいな笑みを浮かべるのだ。「俺、いますっげー幸せ」こんなふうに素直な彼は珍しい。あんまりにもめずらしくって、夢じゃないかなんて思うけど、つねったほっぺはちゃんと痛かった。

「ばっかお前何やってんだよ、イテーだろ!」
「…ありがとう」
「は?…泣きながら笑って、変なヤツ」

伝えてくれて、ありがとう。そんな思いを込めた言葉を紡ぐと同時に、つねって赤くなったほっぺに添えられた向日の手に、自分の手を重ねてみた。憎らしいくらい大きな瞳はじいっと私を見つめてる。彼の瞳にうつる私は、いつも幼馴染たちに言われる通り、間抜けな顔で笑っていた。

(160305)




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