いつも笑顔で、元気で明るい、かわいい感じの、ちょっと気まぐれな男の子。彼の性格を聞けばおおよそそんな言葉が返ってくるだろう、けどね、いま目の前にいる彼の目は、そんな言葉似合わないくらい、それはそれは不機嫌そうで、どうしたの、かすれた声でそう尋ねても、菊丸は知らんぷり。

「ねえ、」
「…言わなきゃわかんない?」
「わかんない、よ」

皆が聞いたら驚くだろう彼の低い声は、私にとってはめずらしくない。だって菊丸は、いつだってまっすぐに気持ちをぶつけてくるから。おこってるときは、いつもこうだ。

「俺がなんであんなふうにひっぱってきたかも?」

わかんないよ。もう一度そう呟くと、俯いていた顔は菊丸の大きな手によってぐい、と上をむけられる。乱暴なようで、添えられた手は優しい。先程、突然腕を引かれた時に掴まれた右手だって、その不機嫌さに反してそれほど強い力ではなかった。彼の手によって、絡み合う、視線。無防備過ぎ、と、たった一言投げられた言葉は、多分、きっと、やきもち。
ごめん、気を付ける。素直に頷くと菊丸は大きな身長のくせして、背中をくるりと丸めて私の首もとに顔を埋めた。

「田中くん、びっくりしてたよ?」
「いーの。勝手にお前の頭撫でる方が悪い」
「もう、」

気さくで爽やかな、クラスメイトの田中くん。いつも親切にしてくれる彼は、大家族のお兄ちゃんで、多分妹にするような其れだったのだと思うけれど、そんなことはきっと、菊丸には関係なくて。首筋にあたる髪の毛は、くすぐったい。彼が初めてみんなの前でみせた、執着、嫉妬。ほんのすこしだけ嬉しいと思ってしまうのは、いけないことかな?大丈夫だよ、私は菊丸がいちばんだから。そう耳元でいって見せると、菊丸の瞳が私のほうに向いた。そうして紡がれた言葉は、いかにも彼らしく。

「当たり前じゃん」

自信たっぷり、そんな笑み。ああわたしはどうやらとんでもない狼に捕まってしまったらしい。かみつくような甘いキスに溺れながら、そんなことを考えた。

(151227)




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