何度からだを重ねても、この瞬間に慣れることは無い。力尽きるように彼の腕の中で優しい眠りについて、朝、目が覚めたときに目の前にある手嶋の寝顔には、いつだって驚かされるのだ。いつも手嶋より早く起きる私と、そんな私が驚いて身動ぎをすることで目を開ける手嶋。何度も繰り返した朝。それもこれも、こいつの腕の中がひどく優しい所為だ。優しくて、あたたかくて、安心してねむれるから、そこに自分以外の存在が居ることを忘れてしまう。「おはよう」と頭を撫でる手はすこし骨ばっているけれど、それさえも心地良い。

「あれ、手嶋今日バイトは?」
「今日は休み」
「じゃあゆっくりだねえ」

しっかりと目は覚めているけれど、布団から出ることはないままに、休日の朝の、贅沢な時間を楽しむ。腰に回された腕に力がこもって、彼との距離がほとんど無くなったと思ったら、おでこにやわらかな感触が落とされる。3時のおやつよりあまったるい愛され方は、何にも変えがたいしあわせだった。

このまままた微睡みの中に落ちてしまうのもいいなあなんて考え始めた矢先、ベッドの下に放り投げた携帯が震える音が響いて、存在を主張する。腕を伸ばして拾いあげれば、表示されていたのは見慣れた後輩の名前だった。

「もしもーし?鳴子くん?どしたの?」
『お、名前さんコンニチハー!今日小野田くんとスカシと久々に集まるんすけどよかったらどうですかー?』
「あー、いいな。私も久しぶりに会いたい。」
『ほんまですか!?』
「うん。あ、でも今日はーーっ、ふ、はは、」
『?名前さん?』
「あは、ごめんごめん。今日はちょっとね、うちの猫が寂しがるから。また今度機会があったら誘って?」
『えー!残念やわぁ…まあでも急やったししゃーないすね!ほなまた!』
「はーい」

ピ、と電子音と共に通話が切れたなら、首元に顔を埋めるにゃんこのご機嫌とりが始まるだろう。ふわふわの髪がくすぐったくて、思わず笑ってしまうくらいかわいい抗議。

「てーしまくん」
「なんでしょう」
「拗ねないの」
「拗ねてないから。ただちょっと妬いてるだけ」
「女々しいなあ」
「知ってる。そんでお前が妬かれて嬉しいのも分かってる」
「……あはは、」

着信の名前を見た瞬間に、すこし期待したのはほんと。だからわざと彼の目の前で電話に出たのも、きっと全部お見通し。頭の切れる参謀の前では、下手な小細工は通用しない。

「寂しがりの猫の相手、ちゃんとしてくれよ?」

楽しそうな手嶋の声に、やわらかな黒髪をくしゃりと乱した。

(151016)




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