しとしと、なんて穏やかな雨じゃない。
前からも横からも後ろからも、叩きつける勢いは全く衰えないままだ。
激しく雨が叩きつける甲板。
波に今にも呑まれそうな船。
暴風暴雨に負けじと飛び交う怒号と砲弾。
忌々しげに、舌打ちをした。
頭蓋に載せた白く柔らかな帽子は飽和可能な水分量をとうに越して、冷たいのか温いのかよくわからない雨滴が直接肌へ浸透してくる。
ーーこの感覚が、嫌いだ
単に身体が腑抜けてしまうだけではなく
もっと別のものが浸食する感覚に
ゆるり、口端が上がる。
否、歪んだ、といった方が正しいか。
逃げられると思ってるのか?
もう引き返せねェぞ
フッフッフッ…!さァ、逃げろ……!
おまえが辿り着くのは何処か……
楽しみにしておくよ……ロー
「…………、」
ぽつり
鼻腔を掠めた一滴に、慣れたものがあった。
空を見上げてもあるのは濃灰の厚い空。
そこに本来赤なんて有りはしない。
有りは、しないのだ。
raining memory
(未だ、あの日に囚われているだけで)