「船長、もうじき嵐が来ます!」
「バカでかいやつっスよ、このまま突っ込んだら、」
「っ船長!一時の方角から、敵船が!!」
大時化の海上、荒れた天候、迫る敵船。
荒れに荒れた海では、黄色い潜水艦の上でそれ以上に慌ただしく動き回る男たちの声が飛び交っていた。
「でかい波が来るぞー!!」
「耐えろォッ!!帆を畳むまで耐えるんだ!」
甲板は慌ただしく帆を畳む者、応戦に備える者、潜水の機材の点検をする者でごった返し。
船内も走り回る足音で騒々しい。
クルー達は皆、今までにない程の機敏さと集中力を発揮していた。
普段だらけた所の否めない人間も、危機感が迫ればこうも変わってしまうものなのか。
ペンギンの文字が入った帽子を深く被った男は心中でぼやいていた。
ーーそんなに動けるなら、普段からも動けよな……
溜息を漏らしながら、再びぼやく。
いや、そんな感傷に浸っている場合ではない。
自分も同様に、先程まで彼方此方指示を出しながら駆け回っていたが、
状況は易しいとは言い難い。
指示を仰ぐため、船長室へ急がなければならなかった。
「船長!」
バンッ、と常ならばするノックをせずに、船長室の扉を破れそうな勢いで開けた。
「船長、もうじき嵐が来ます!」
「バカでかいやつっスよ、このまま突っ込んだら、」
「っ船長!一時の方角から、船が!!」
口々にクルー達が状況を伝える。
「船長、早く潜行しないと手遅れになります!」
船長、早く指示を。
この一分一秒でも惜しい。
どの顔も、そう語っている。
それ程状況は最悪かつ緊迫していた。
もはや一刻の猶予もない。
「船長!」
「……あぁ」
返ってきたのは独り言程の声量の、短い一言。
そこに緊迫も、焦燥も、感情といえるものは籠っていない。
机上で窮屈そうに足を折り畳み、帽子を脱いだ頭の裏で腕を組む、船長。
こんな時、大抵の言葉は脳内で処理されずそのまま流されてしまうのだが。
今回のそれも条件反射で吐き出されただけの言葉かどうか、判別しにくい。
きちんと届いているのかが些か不安なところだ。
椅子に背を預けた船長は天井を見上げたまま深く嘆息し、瞑目した。
「……………」
ーーまた、寝ていないのか…
顔色が優れないせいか。
慢性化されつつある隈が、前回見た時よりも一層濃くなった気がする。
はぁ、と息をつきながら、危機感を感じない、至極淡々とした態度の船長を見つめ、俺は落ち着かないままにどうにか閉口した。
横に立つ、何人かのクルーも同じ。
俺達は只、その瞼と口が開かれるのをじっと待つ。
「うわぁっ!」
激しく揺さぶられる船が大きく傾いだ。
クルーも皆慌ててバランスを保とうとするが転がる者数名。
人も物も、船内のものがあちこちに滑って移動しいわゆる散乱状態。
「…………」
そんな中でも唯一微動だにしない姿に、もう一度小さく嘆息した。
Let's,starting
(そうやって、静かに幕は開く)