07



「船長を討ち取れェーー!」
「こいつらの船長は億越えだ!油断するな!」


思い思いの武器を手に、次々と男達が黄色い船に乗り移る。数は、つなぎを着たクルー達より遥かに多い。


「アイーー!」
「ぐわぁッッ!?」


乗り移ろうとする男達は、船に降り立つ前に片っ端から海へ落とされていく。


「どうなってんだ!」

「アイツだぁ!アイツが、俺たちの仲間を!」

「アイーーッ!」


その正体は奇声を上げ華麗に空を舞う、目に鮮やかなオレンジのつなぎを着た、


「なんでシロクマが戦ってんだァ!?」
「クマが戦ってスイマセン……」
「打たれ弱ッ!!」


思わず驚き突っ込む声に、落ち込むシロクマが一頭。


「ベポ!」
「アイアイ、キャプテン!」


ベポ、と一喝されたシロクマは再び戦いに飛び込んでいった。カンフーのような動きで敵を蹴散らしながら。
それを横目で眇めた、キャプテンと呼ばれた長身痩躯の男は、身の丈程もある長刀を担ぎ直す。

白い斑点模様の帽子を目深に被り、口許には不敵な笑みを浮かべ、只者ではない雰囲気を放つ様は数多いる海賊の中でも異様。

存在自体が人に戦慄を彷彿と感じさせる。


「さて、どうしたものか……」


戦況を見極めるかのように首を巡らせ、目を鋭く細めた。


ーー圧倒的にこちらが有利な戦況

ーーつなぎのクルー達が瞬く間に敵を葬りそれらは海中へ姿を消している


それなのに、倒しても倒しても一向に敵の数は減っていない。
この程度の海賊など、自分たちにとっては小物でしかないというのに。


ーーー何故、


騒々しい戦闘の渦中から離れ、しばし思案しているうちに顎に指先を持っていっていた。あいつら曰く考え事をする時の癖らしい。まぁ無自覚なもんだから言われるまで意識しなかったことだ。こうなると自然と視線も俯きがちになる。周りが見えなくなる。危なっかしいのでやめてくださいと言われていた気がしないでもない。


「おい」


ごつい靴先が視界に入った。

あぁ、確かに向こうは思考に浸らせてくれる程紳士な集団ではないだろうな。

「お前ここの船長だろ?悪りィがその首取らせてもらうぜ!!」

案の定、応戦の手を止めた途端ここぞとばかりに剣撃、銃弾。


「フン……お前ら如きが、おれの首を取る?」

「寝言は寝てから言え」


言葉を吐き捨て気味に、刀を一閃させた。


「ぎゃあぁぁ!」

「お前なんで生きてんだぁ?!」

「アイツの能力だ!噂通り気味が悪ィ!!」


いちいち相手にするのが面倒で能力で纏めて片付ければ、そこら中に散乱する頭手足胴体。
元の姿に戻ろうと無駄な努力をするそれらを見、役目を終えた愛刀を鞘に納める。


ーーにしても、数が多いな


敵はまだ船内に沢山おり、クルー達は奮闘している。見た感じ重傷者はいないようだから、もう間も無く片は付くだろう。

ひどくなる雨で張り付く服が鬱陶しい。
クルー達は水分を飽和寸前まで含んだ帽子を脱ぎ捨てていた。


「………ッ、」



ぶわん、



一瞬頭の奥がくらりとした。
意識が遠のきかけた。

咄嗟に後ろの欄干を掴み、耐える。


ーー何だ…これは…


「キャスッ!」


思考は突如、上がった叫びによって遮られた。


背後に忍び寄ったのだろう、敵の一人が今にもキャスケット帽の男に襲いかかろうとしている。
急ぎ刀を持たない左手を翳し能力を展開させる構えを取るも、敵のナイフが動く方が断然早い。

「キャス!避けろ!」

何処からかする叫びに気付いて慌てて防御体制を取っても、遅すぎる。

キャスに警告した声の主、PENGUINと文字の入った帽子を被るつなぎの戦闘員ーーペンギンが叫んだと同時に手に銃を構え、敵に狙いを定めながら駆け出す。



ズガァン、



響く音に次いで飛んだ弾丸は、シャチの真後ろでナイフを振りかぶった男の右肩を過たず撃ち抜いたようだ。

「うぐっ!?」

「さんきゅ、ペンギン!」
「っのバカが、」

焦っただろ、と軽くキャスを諌めるペンギンは幾分安心した様子で溜め息をついた。
敵は伏したまま、ぴくりとも動かない。

油断だった。


「……この、嘗めてんじゃねェッ!!」


「「!」」


倒したと思った相手が再びその後ろに、凶器を手にし立ち上がる。


「キャスッッ!!」


苦痛に表情を歪め、肩を庇い崩れ落ちた白のつなぎには赤い染みが広がった。


「キャス!しっかりしろ!」



「ペンギン!!」

「、船長!?」

「キャスを運べ、応急処置をする!!」

「わかりました!……ベポ!」

「アイアイ!任せてよ!」






オトナシサイレン





(違和感の歯車が、狂わせていく)




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