暗闇に落ちた日の空を





昨日例えば大地が死んで
今日例えば海原が涸れて
明日例えば虚空が消えて

辺り一面、真っ黒で真っ暗


そんな世界とも呼べないものを
いつか眺める日が来たとして


ただ一つだけ付け足すことが出来るなら、


「何を付け足す?」


誰も居ない、空っぽの海に問い掛けた。





「…………光」


太陽の、光



反対側の舷に凭れる
薄明かりの朝焼けを見つめる背が、
灰黒色の長い影を落として振り返ることなく
朝霧に言葉を融かした。



「どうして、太陽の光なの」


前に、陽の光は苦手だって言ってたじゃない


真夏の昼間に凶悪なほど照りつける太陽を、気怠げに見上げながら。



「夏の陽は力強くて、元気にしてくれる気がするからわたしは好き」

「夏が好きなのか?」

「別に好きな訳でもないけど」


ローは?


「おれは、」


嫌いだ



“どうして嫌いなの?”




出掛かった、けれど
あの時そう聞けなかった。




「……さあな」

「なんとなく?」

「……あァ」

だが、



「何もない世界でも、」




こちらに向いていた背がくるりと反転した。


「……ロー?」



陽光を真正面から受けるわたしには、その輪郭しかわからない。


朝ぼらけの甲板は時が止まったように静かで。
波も、風も、雲も、一切が動かない。


わたしと、ロー。

二人の時間だけがゆっくり動いている。

船の端と端で、向かい合ったまま。






こつん、




沈黙を破ったのは、一歩目の音。

ニ歩。

もう一歩踏み出せば、

あと三歩。

あと一歩。



「…………」


頭一つ分以上高い位置の、銀灰の双眸。

静寂で孤独な、雪降る夜に一人見上げた真っ暗な空に在る月の色は
わたしの好きな季節の色。冬の色。



「……なんだ」

「綺麗、」




ほう、と漏れ出た呟きを。

拾って、僅かに眇めた目を空へ戻す銀色は、
其処にあの金色を映した。



「……確かに、」


綺麗だな





ひどく、優しい声だった。

ひどく、哀しい声だった。

ひどく、愛しい声だった。




ほんわかとした、ほろ苦さが広がった。








だけど、

このほろ苦さに、
砂糖を溶かす勇気はない。









「……夜が、明ける」



だから今は隣で、眺めるしか。


暗闇に落ちた日の空を



(早く眺める日が待ち遠しい)





僕の知らない世界で様提出


2013.0826


[ 4/7 ]










「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -