ネバーランドに行きたくて









「ローの夢ってさ」


ネバーランドを目指すのに、似てるね


くすり、と小さく笑って、のんびりした口調で告げながら。
シオはログポーズを眺めていた。

ゆらゆら揺れる指針の先は、真っ暗な海の中。
今は潜行している船も、海流に乗ってゆらゆらと穏やかに航行している。
船室には時折藍色や薄青色の光が入り込んでいた。



「絶対あるって、子どもの時信じてた」

いつか行きたいな、ってね。


「……子どもの時、か」



指針から目を逸らさずに唄うように紡げられた言葉に、書物から目を逸らさずに問う。


今はもう信じてねぇってのか、その世界。


「だってこの世界にあるのは、そんな甘いものじゃないもの」

「確かにな」


皮肉気に嗤った。


子どもはいつか大人になる。
沢山のくだらないものに雁字搦めになって、
自由な夢なんて存在しないと悟る。


虹の橋は渡れないし、銀の月は掴めない。


大人なら誰もが当たり前だと口を揃えて言う、真理。常識。


純真な夢を、所詮夢だと理解したのはいつだったろうか。

無意識に大人になって、世界を知って。
無限にある夢が、有限になって。
世界は、ずっと狭く、浅く、つまらないものになった。


「でもね、」

苦い苦い世界の先には、とびっきり甘い世界があって。
きっとカミサマも苦いものの最後に、甘いものを食べるのが好きだから。
わたしたちにも、最後のデザートにって用意してくれたんじゃないかな。


甘い甘い、夢の世界。


「そこが、おれの夢って訳か」


苦く辛い現実、旅の終着点が夢の地ならば、
そこがシオの言うカミサマのデザートで、
ネバーランドなのだろう。


「……おれには少し苦いくらいがちょうどいい」


甘い夢、なんて綺麗で美しいものじゃない。


「じゃあ、一番甘いところはローの代わりに食べてあげるね」


それでわたしが食べれないところはローが食べるの。
そしたらほら、二人とも好きなところだけ、
美味しく食べれるでしょ?


「あぁ、そうだな」


皮肉でない、愉悦の感情を口端に浮かべた。


「じゃ、食べ逃さないようにずっと傍にいなきゃ」


「私のとびっきり甘くて美味しいデザートは、ローだから」

「……おれ、か?」

そう、こっくりと頷くシオのミルクティーの髪がふわりと揺れた。

「デザートを見つけた時の、ローの姿」

新鮮なものを、すぐ近くで味わいたいの。

「それが今のわたしの夢」




「今でもじゃないのか」

「?」

「ネバーランド、だろう」



彼の地、ラフテルという名のネバーランドでその夢は叶う。
シオが子どもの頃信じていた世界で。

「……ふふっ、そうだね」



ネバーランドは、甘い甘い、夢。
遠く遠く、苦い苦い旅路の先にきっとある。


「ロー、ネバーランドに行くにはどうしたらいいのかな」

「……そうだな、」


座り続けた椅子を後に扉を開けて外へ出れば、
真っ青な海と、空。

真っ新な朝の陽射しに目を眩ませながらも遠く遠くを見つめた。







空の代わりに、海を翔んで




(夢じゃない夢を、捜しに行けばいい)

くうはく



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