最近ここらへんで切り裂き魔が出没してるんだって、怖いね、物騒だね。
おもむろに呟いたなまえの綺麗な長い髪が窓ガラス越しの夕陽に照らされてオレンジ色に輝いている。時刻は18時を過ぎた頃で、そろそろ最終下校のアナウンスが流れ始めるだろう。細い錦糸のようなその髪を手で梳きながらなまえの言葉に返事をする。

「知ってるよ、日本刀で首を一撃だって聞いた。」

髪を梳いていた手を彼女の首に当てる。首筋をスッとなぞればこそばゆいのか頭を左右に振って俺の手から逃れようとする。頭の動きに合わせて揺れる艶やかな髪がキラキラと輝いて眩しい。

「くすぐったいよ、タツヤ。」

目を細めながら笑うなまえの手が遠慮がちに俺の手に添えられる。白くて細い指は俺が力を込めたら簡単に折れてしまいそうだ。

「それで、その切り裂き魔がどうしたんだ?」

話を元に戻すとなまえは眉を下げて少し困った顔をする。そんな顔さえ愛しくて仕方無い俺はどうかしてるだろうか。

「タツヤが切り裂き魔に殺されちゃったらどうしようって思ったら、怖くなっちゃった。」

顔を俯かせて寂しそうな表情を浮かべるなまえの頭を壊れ物でも扱うかのように優しく撫ぜる。俺より頭一つ低い身長のなまえはとても撫でやすい。こんなに小さくて容易く壊れてしまいそうな彼女を守るのは自分だと再認識するこの行為が俺は好きだった。

「大丈夫、俺は絶対にいなくならないよ。ずっとなまえのそばにいて守ってあげる。だから笑って欲しいな。」

そう柔らかく囁けばなまえの顔には笑顔が戻る。「約束だよ、タツヤ」小指と小指を絡め子供のように指切りをするとなまえは嬉しそうに微笑むのだ。

ねぇ、切り裂き魔に殺されてる人の共通点を知ってるかい。ある女の子に人知れず恋愛感情を抱いた下賎な輩と醜い嫉妬心を燃やした女達。そんな邪魔物には消えてもらわないと困るよね。俺達の幸せな時間を邪魔されたらたまったもんじゃない。それにね、俺が切り裂き魔に襲われるなんて万が一にも有り得ないよ、なまえ。だって俺が俺を殺すなんて、そんなことなまえが俺の横に存在する限りするわけないんだから。


2013.11.17 thanks,告別

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