これと微妙に繋がっていますが読まなくても全然問題ないです
※晴矢となまえちゃんは付き合ってます
※死ねたです




よく少女漫画などで「永遠」とか「永久」とかいう言葉を見掛けるが、俺はそんなもの信じてはいなかった。どんなに長生きした大きな木でもいつかは枯れ果てていくし、永遠に一緒だと誓った夫婦だっていつかは死んでいく。この世に永遠のモノなんて存在しない、それが俺の持論だった。まあ持論と言うほど強い思いでも無かったしその考えに拘る理由も特に無かったが、少なくとも俺は永遠なんて信じちゃいなかった。前に一度人前でその話をしたが、あの時の周りの反応ほど俺が呆れたものはないかもしれない。「夢がない」だとか「お前のなまえに対する思いはそんな程度だったのか」だとか、お前らに関係無いだろと言ってしまいたくなるようなうんざりした返答だった。俺はそれ以来、この話を人前でするのはやめた。話したって面倒なだけだ。





「たまに思うんだよね、このまま時が止まればいいのにって。そうしたら晴矢と離れる事もないだろうし」

ギラギラと痛い程に照り付ける太陽の光を反射して銀色に輝く川を見つめながら、なまえはぽそりと呟いた。少しでも気を反らせば消えてしまいそうな彼女の小さな願望に俺はただひたすらに拳を握りしめることしかできない。あぁ、そうだな。なんて曖昧な返事を返して俺は彼女の横顔をちらりと横目で窺った。少し陰りのある丸い瞳、彼女のソプラノを発する形のいい唇、病的に白くて柔らかい頬、全部が全部、好きで堪らなかった。

「ずっと、永遠にこんな風に……あ、」
「何だよ」
「晴矢は永遠なんて信じないんだったね」

晴矢ったら変なとこリアリストなんだから、彼女は笑って寂しげに呟いた。

なまえが余命1ヶ月と言われて明日で1ヶ月、なまえ本人の希望で最期はおひさま園で過ごすことになった。半月前にお見舞いに行った際になまえの口から「実は私、余命1ヶ月なんだって」と告げられた時、俺は何も考えられなかった。ただそれを黙っていたなまえに対して悲しみという名の怒りが湧いただけで、俺は茫然自失とするしかなかった。でも今は、治してやれないなら俺が出来ることをなまえに精一杯してやろうと決めた。そして今日は昔よく走り回った土手で久しぶりにゆっくりと話していた。最近はずっと遠くに出掛けたりおひさま園のやつ全員でサッカーをやったりしてバタバタしていたから、こうしてちゃんと2人っきりで話すのはなまえから余命を告げられた時以来になる。あの時の失望感を思い出しそうになったが無理矢理押し込めた。なまえを悲しませてはいけない、俺の脳内はそれ一色だった。

「あ、私きっと明日で死んじゃうけど、晴矢泣かないでね」
「…なんでそんなこと言うんだよ」
「だって晴矢が悲しんでる顔なんて見たくないし」
「ッそうじゃねぇよ…!なんで平気で死ぬとか言えるんだよ!助かるかもしれねぇだろ!」

思わず声を荒げてしまった。ひまわり園のやつらもなまえも、みんな余命を理解し前に進んでいるけど俺は未だに一人、なまえが死ぬだなんて信じたくないままでいた。なまえに何でもしてやろうと決めたのにおかしい話だ。でも誰だって大切な人が死んでしまうなんて認めたくないと思う。もう嫌なんだ、大切な人が目の前で消えていくのは。

「もう私は助からないんだよ、晴矢」
「だって、お前はまだ…!」
「…もう、いいから…」
「お前はまだまだ、俺と同じガキなのに!もっと一緒に居てぇのに!どうしてなまえが死ななきゃならねぇんだよ!」
「晴矢!!!」

俺の叫びを遮るようになまえが叫んだ。ハッとして隣を見るとなまえは下唇を噛み締め涙を堪えていて、それを見た途端に罪悪感が込み上げてきて俺は下を向いた。
怖い筈がない。まだ普通の人の人生の半分も生きていないのにいきなり余命を宣告されて、一番怖くて辛かったのは俺じゃない、紛れもないなまえ本人なんだ。それなのに彼女は笑顔で最後の1ヶ月をおひさま園の連中と過ごしてきた。本当は怖くて仕方ないのを心の奥にしまいこんで、みんなに心配をかけないように笑いあって。なまえはなんて強いんだろうか、こんな時まで自分より周りを優先するなんて。泣き顔なんて情けなくて見せたくないから我慢していた涙が一滴、膝に落ちた。

「…なんで晴矢が泣いてるの」
「お前が泣くの我慢するからだよ。それに…」
「それに?」
「明日…いや、最後ぐらいお互い笑顔でいようぜ。だからこれはその時の分だ」

なまえは一瞬きょとんと首を傾げたがすぐに笑顔になって、嬉しそうに話しだした。

「約束だからね、晴矢」
「あぁ、2人だけの約束だ」
「ふふ、晴矢大好き!」
「俺も、なまえのこと愛してるぜ」


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よく少女漫画などで「永遠」とか「永久」とかいう言葉を見掛けるが、俺はそんなもの信じてはいなかった。そう、この前までは。
なまえは余命通り次の日に苦しみもせず、最後まで笑顔で昼寝をするように眠りについた。最後の言葉はさようならでも今までありがとうでもなく、"ちょっと寝たら起きるから、そうしたらアイス食べよう"というなんともなまえらしいものだった。でもなまえはきっともう二度と目覚めないのを自分でわかっていて、だからこそ涙を流しながらも笑っていたんだと思う。俺はちゃんと笑えていただろうか。風介やヒロトみたいに優しく声を掛けられていただろうか。頭の中でぐるぐると疑問が駆け巡って、それでも妙に納得している自分がいた。きっと泣きながらでも笑えていた、そう思うことにした。あれから1ヵ月過ごしてきたが何かが足りないような、そんな気がする何とも満たされない日々を送っている自分はきっとこれからなまえ以外の奴を心から愛することが出来ないんだろうと思う。

「永遠、か」

少し前まで永遠なんて信じていなかったけど、なまえとなら信じてみるのもいいかもしれない。オレンジ色の夕陽を反射して輝く川を見つめながら、そう思った。




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thanks:唇蝕


2012.10.09

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