「なっ…!んでそんな大事なこと黙ってたんだよ!」

自分で思っていたより大きい声が出て、俺は自分でビックリしていた。廊下にいる人が何事かとこちらに視線を向け、個室の入り口では看護師が「病院ではお静かに!」と叫んでいる。でも今はそんなことはさして問題ではなく、今しがたなまえが発した事実の方が俺にとってはよっぽど重要だった。

「晴矢に心配させたくなかったの。そんなに怒らないでよ」
「怒るなっていう方が無理だろ…!心配する以前の問題だろそれ!」
「そうかなーでももうどうしようもないことだし」

なまえはそう言いながら窓辺に置いてある花瓶を見詰めた。なまえが大好きな向日葵が日に向かって生き生きと咲いている。その中でひとつだけ茎が折れて枯れている花を見付けるとなまえは静かに折れた向日葵を抜き取った。

「私はね、きっとこの向日葵と同じなんだよ。もうすぐ咲くってときに折られて枯れていく。周りはそれを哀れんだ目で見てくるの。見られている花の気持ちも知らないで、ね」

俺は何も言葉を返せなかった。無言のまま俺は踵を返し病院を立ち去り、おひさま園までの道のりを何も考えずボーッと歩いていく。まだ初夏だというのに太陽は容赦なくさしていて肌が焼ける音が聞こえてきそうなぐらいだった。遠くの方では陽炎が立ち込めていて、今日が暑い日であるというのをよく示していた。なまえは多分、この景色も随分と見ていない。きっとあの真っ白な世界から出て色んな事をもっとたくさんやりたいと思っているだろうけど、俺は医者じゃないからどうすることも出来ない。何も、してやれないんだ。

「情けねえな、俺…」

首筋を伝っていた汗が、アスファルトにポタリと落ちて消えた。

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初夏に書いたんですが詰まったので没です…。似たような話がもうひとつあるので繋げてしまおうかと企んでます。

(枯れていく花の気持ちを50字程度で答えなさい)
2012.08.24

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