「もう1人は嫌なんだ」

私の目の前で静かに涙を流す彼がぽつりと呟いた。辺りは雪が降り積もった白銀の世界で、そこにまた新たな雪が空から舞ってきていた。随分と長い間そこにいる彼の肩には少しずつ、でも確かに雪が積もっていっていてこのままだと彼がどこかへ消えてしまいそうなそんな気がして、私は彼、吹雪士郎を後ろからきつく抱き締めた。触れた身体は驚く程冷たくて、彼は本当に生きているのかどうか不安になる程だった。

「私は絶対士郎を1人にはしない。だから、帰ろう。一緒に。」

私は士郎じゃないから彼の痛みや辛さは解ってあげられない。でも、少しだけでもいいから彼の辛さを軽くしてあげたかった。今の士郎は見ていて辛くなるぐらいとても弱々しくて、触れたら崩れてしまいそうなそんな儚さも持ち合わせていた。だからこうして彼に触れて存在を確かめて、だけどずっと冷たい彼の身体に何故か目頭が熱くなって私は士郎よりもたくさん涙を流した。誰よりも痛くて辛いのは士郎の筈なのに、私は涙が止まらなかった。止められなかった。

「帰ろう、士郎。ここは寒くて冷たいよ」

士郎はうわごとのようにそうだね、と呟くと静かに歩き出した。その後ろ姿までもがどこか遠くの知らないところへ消えていってしまいそうな気がして、私は士郎の氷のように冷たい手を握り締めた。


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ふぶきゅん


(冬の日でさえあなたはずうっと泣いていた。)
title by 臍
2012.03.15

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