暗闇の中へ投げ出された後、すぐにドサリと床へ落ちた。
いきなりの着地だったもので、失敗して床に座り込んでしまった。
・・・おかしい、少なくとも屋根の底が抜けて、その下の2階へと落っこちたのだ。
階段を2、3段下り間違えた感覚だ、これは・・
立ち上がろうと足を踏み込むと、ギシリと音がして、床が木製な事に気がついた。
我が家は木造だが、床はフローリングである。
それに、いくら古いといっても、ニスぐらいは塗るさ!こんな木がむき出しの造りじゃない・・。
おかしい・・と、立ち上がると、床と同じような色のテーブルとかイスが何個も置いてあった。
カウンターもある。
クラシックな喫茶店みたいだな・・と思っていると、少し離れた所でハジメが立ち上がるのが分かった。
おぉぉ!!無事だったか!!と駆け寄ると、落ちていたスコップに足を取られて、再び床へダイブする私・・。
ドジ過ぎる・・・
慌てて近づいてきたハジメに「大丈夫かよ・・」と呆れながらも起き上げてもらい、改めて二人で部屋の中を見回した。
「ここは、なんなんだ・・?俺、てっきり屋根がぶっ壊れて2階の部屋に落ちたのかと思ったけど・・・」
「いい感じの喫茶店ぽいよね・・・」
「確かに・・・」
二人でキョロキョロしていると「誰じゃ?」とカウンターから白いヒゲを生やしたおじいさんが顔を出した。
この人がこのお店のマスターだろうか・・?
だとしたら、いくらお店の中にお客さんがいなくっても怒らせてしまうだろう・・。
ここは先手を打って謝り倒すか・・
「わたs」
「・・お前さん、もしかしてミヨかの・・?」
「ぇ、何で名前を・・」と言う前に、おじいさんは、カウンターから身を乗り出して「やっぱりそうじゃ!!」と元気よく頷き、太陽のような笑顔をみせた。
「なんで、姉ちゃんの名前・・」
「だとすると、そっちはハジメじゃな?」
「ぇ・・」
「なんで、ハジメの名前まで・・」
二人で吃驚していると、カランカランとベルが鳴り、後ろのドアが開いた。
「ただいま」
「じっちゃん、帰ったよー!」
若い男性の声と、小さい少女の声がして、後ろを振り返った。
仕事服なのか、所謂『タブリエ』のウェイター服の男性となんちゃってメイド服ぽいものを身に纏った背の低い女の子がいた。
買い物から帰ったのだろうか、食材を両手に抱えて重たそうだ。
惚けていると、ダブリエの男性と目が合った。
瞳を大きく開き「三四・・」と、呟きながら私に駆け寄り、持っていた物を投げ出して強く強く抱きしめてきた。
・・・ぇ
・・・・ええ!??
今まで彼氏だとかそういうものに縁のなかった私は、男性に抱きしめられているという、体験した事の無いもの受け止める事が出来なくて、固まってしまった。
・・ていうか、誰だろ、この人・・・。
「いい加減、姉ちゃんから離れろ」と、見えない筈の怒りマークがはっきりと分かるぐらいイライラしている弟に引きはがされるまで、あと5秒。