女子学生のバレンタインといえば、放課後が勝負だと思う。

前日頑張って仕上げて、ラッピングも上手くいったし、渡すときに言うことも考えた。あとは渡すだけなのに、放課後の教室をほとんど回っても彼が見つからないなんてどういうことだ!

「という訳で助けてください」
「俺に聞かれても知らぬ」
「先ほどまで一緒だったんですが…」

私の先輩にあたり、彼と仲の良い三成さんと幸村さんに聞いてみた。だが二人とも知らないなんてどういうことだ。

「も、もしかして何か急いでる感じでしたか!」
「そうでも…あっ、行くところがあるみたいなことを言ってたような気がします」
「それは何処ですか!!!」
「うるさい、声がでかい」
「うーん…そこまでは聞いてないですね」
「そうですか…ありがとうございます」

丁寧に教えてくれた幸村さんに感謝しつつも、私はもやもやが収まらなかった。もう既に誰かからのお誘いを受けているとするなら、それは私が作ってきたチョコが意味を持たなくなる。

「落ち込む暇があったら他の方法を考えたらどうだ」
「落ち込んでないですけど!」
「まぁまぁ二人とも」

それに誰かに貰う約束があるとは限らないんじゃないですか?と言ってくれた幸村さんに、もう諦めますと笑って見せた。幸村さんは心配そうな顔をしたけど、軽くお礼を言って逃げるように学校を出た。

帰り道の途中で、鞄の中でカタカタと音を立てたチョコに、またもやもやしたものが身体中を巡っていった。私はついにイライラして、鞄の中のチョコを取った。赤いリボンが付いているのもむしりとってしまいたかった。けれど、道の途中で開けるのも、どうかと思う。なので、近くの公園で食べてしまおうと思った。そうしたら、ごみも何もかもここに置いていける気がする。
ふと、ブランコの方へ目をやると、あの兼続先輩がいた。ご丁寧に足を揃えて座り、膝の上に置いてある可愛いラッピングのチョコレートたちをぼんやりと見ていた。
それを見て、なんだか追い討ちをかけられた気分だった。目が熱くなってきて、うるうるとしてきた。そうだ、早く家に帰ろう。帰ってチョコレート食べてしまおう。もういっそのこと、さっきの先輩たちに押し付けたら良かった。そう思ううちに足はだんだん早くなり、公園を足早に通りすぎて行った、と、思いたかった。

「名前!名前!」

大きな声が辺りに響いた。その声の主は、兼続先輩だった。私は思わず知らないふりをしたけれど、兼続先輩はこちらをじっと見たまま呼ぶのを止めない。仕方なく、あのブランコのところへと行くことにした。でも本当は淡い期待を持ちつつ。

「ちょうどお前を探していたんだ、良かった」
「私を、ですか?」
「ああ、今日はバレンタインとやらだろう」

そこまでいいかけて、兼続先輩はちょっと照れくさそうにし、目線を泳がせた。そして、よし、と一言言うと私に目線を合わせて言った。

「名前、お前が好きだ。だからその、チョコを私にくれないか!」
「は?」

言っていることがめちゃくちゃだ。それに、私のことが好きだって聞こえた気がする。すると、兼続先輩は膝の上にあったチョコたちを急いで鞄にしまい始める。

「わ、私が本当に欲しいのは名前からのチョコだ、か、勘違いしないでくれ」
「兼続先輩はバレンタインをなんだと思ってるんですか」

先ほどの泣きたい気持ちも吹っ飛んでしまうくらい、目の前の兼続先輩はめちゃくちゃなことを言っている。もしかして、お酒入りのチョコでも食べてしまったのだろうか。

「とにかく、私は名前が好きだ。だから…」
「私も、兼続先輩が好きです」

どこから突っ込めば良いかはもう分からないけれど、私は元から兼続先輩に渡そうと思っていたチョコをあげた。兼続先輩は嬉しそうに受けとると、私は幸福者だ!と大声で言うのであった。


(結局バレンタインというのは何だ?)
(…兼続先輩は知らなくて良いです)
120217 forにこさん!
バレンタインに間に合わなくてごめんなさいです(…)リクエストありがとうございました!
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