真介先輩が来るまで、後輩からもらったチョコレートや、なぜかバレンタインなのに同級生にもらったチョコレートを食べていた。
いつもは生徒会のみんながあれこれ忙しそうにしている部屋なのに、今日は仕事がないという理由で誰もいなかった。
部屋に入るときに入れ違った名張くんにもチョコレートをあげようとしたけれど、また今度にしてもいいですか?と断られてしまった。もしかして彼には本命の女の子でもいるのだろうか。でもその時に、先輩と同じようにもらうなんてごめんですよ、って聞こえたのは気のせいだと思いたい。

それにしても、仕事がないにしても、真介先輩が来る気配は無かった。彼の荷物はこおにあるし、もし忘れていても荷物を取りに来るだろうし……。
私が待っていることは知らないと思うけれど。

2月の寒気と、外が早く暗くなってきてしまうのが相まって、そろそろ待つのがだるくなってきた。そしてお腹が鳴り始める。帰り道で肉まんでも買おうかな、と思っていたけれど、ふと。彼のためにつくったチョコレートも、渡せる見込みがないのなら、少し食べてしまおうという考えが思いついてしまった。
もうお腹も限界だ。そして私は、自分で飾り付けたラッピングを丁寧に外して、チョコレートをひとつ自分の口の中に入れた。ああ、我ながらよくできている。口の中で溶けるのを楽しんでいたら、

「名前ちゃーん、こんなところで何してるの?」

向かい側からずっと待っていた人の声がして、とっさに持っていたチョコレートを後ろに隠した。

「あ、あはは真介先輩こんにちは」
「もうこんな時間だよ、そろそろ帰らないと閉じ込められちゃうよ」
「えっ、あっ、そうですね、あはは、もう帰りますね」
「今日は生徒会、無かったけどもしかして俺に用事あった?」

目の前にいる真介先輩はちょっと照れくさそうに笑った。これって、もしかして私がバレンタインに渡そうとしてくれたのかな?とか考えているんじゃないのだろうか。勝手にそう思い込みたい。

「あるにはあるんですけど……」

しかし思い出してしまった。渡そうにも真介先輩の為に用意したチョコレートたちは中途半端にラッピングが開いているし、そのうちのひとつは私の口の中である。

「さっき後ろに」
「なんにも隠したりしてないです」
「………」
「気のせいです」
「今日は何の日でしょうか!」
「アレですね、バレンタインですね、それがどうかしましたか」
「……」
「……もぐ」
「今口動かしたでしょ」
「気のせいです」
「後ろに隠した手に持ってるのは」
「ケータイです」
「机の上に置いてあるけど」
「……」
「口の周りチョコついてるよ」
「えっ」
「嘘だよ、うーそ」
「……なんなんですかもう」

もうこの調子だったら渡せるものも渡せない。そう思って、私は素直に後ろに隠していたラッピングが中途半端なままのチョコレートを差し出した。

「あの、真介先輩に渡そうと思ってずっと待ってたんです。でも全然来ないから、お腹すいてお先に食べちゃいました、はい」
「えっ、本当に俺にくれるの??」
「はい」
「へえー!すごくきれいにできてる!美味しそうじゃない!」
「我ながら自信作ですし」
「ねえこれ本命チョコ??」

もう一緒に喋っているだけで、どきどきするし口の中がどんどん乾いていく。
おまけに本命?って照れくさそうに頭に手をやって尋ねる先輩がどうしようもなく可愛くて仕方がない。だから私は目を背けて、そうです!と言って、もうどうでもよくなって生徒会室を飛び出たのだった。

「あっ!ちょっと名前ちゃん!鞄!かーばーん!」
140221