「三成ー!遊びに来てやったぜー!」

襖がばたんと音がして、さらにずいぶんと張り上げた声で、正則は三成の名を呼んだ。途端に彼は心底嫌そうな顔をして、ちょっと押さえた声で黙れ、と言った。

「今名前が寝ている。静かにしてやれ」

よく見ると、三成の隣で気持ちよさそうに寝ている名前がいた。彼女は長い髪を垂らして、三成に寄りかかっていた。
正則はそんな二人を見、ニヤニヤしてどこかへと行ってしまった。全く、気持ち悪い奴め。

それにしても―…三成はずいぶんと気持ちよさそうに寝ている名前が気になってしまっていた。この状態では顔が見えない。
ふと、彼女の瞼がひくりと動いた気がした。三成は彼女を壁へともたれかけさせた。

「起きたか」
「…あ、三成おはよう」
「ずいぶん寝ておったな」
「何だか眠たくて。ごめんね」
「いや…昨日はずいぶんとお前に無理させたからな」
「えっ、わっ、馬鹿!恥ずかしいこと言わないでよ!」
「なんだ、そうでも無かったようだな」

三成はにやりと笑った。名前は背中に冷や汗が伝うのを感じた。この表情をした三成は危ない。頭の中で危険を知らせるサイレンが鳴り響く。
すっと手を伸ばして、彼女の顎を触ると、じわりじわりと距離を詰めて口づけをした。最初は軽く触れるものだったが、次第に味を確かめるように長いものになった。


「み…三成」
「…そう煽るな」

そうやって目を閉じ、顔を近づける三成を見て、長い睫が綺麗だと思った。女の私より綺麗かもしれない。そしてその睫が静かに揺れているのが分かった。彼も、心の中を私でいっぱいにしてくれているのだろうか…。


しばらくした後にそっと離れた。彼女の頬はわずかに赤く、吐く息も熱っぽかった。肩は静かに震えている。
三成は震える肩に手を添えて押し倒した。

「三成、誰か来るから…」
「あれほど煽っておいてそれか。尚更教えてやらないとな…」
「駄目、足音が聞こえてくるもの」

名前の言うとおり、二人のいる部屋へ足音が近づいてきていた。この足音は清正と正則のだろう。
三成は舌打ちをした。それから彼女のお腹を、細い指先でつつ…と触った。名前の手を取り、起きあがらせると耳元で囁いたのであった。

「今晩を楽しみに待っておくことだな、名前」
110704