さて寝ようとしたときにふと思い出したことがあって、名前はしまったと思った。もう少ししたら日にちが進んでしまう。名前は寝るときの格好のまま急いで彼の部屋へと向かった。

ひんやりした廊下をいそいそと渡り、彼の部屋に着いたのは良かったけれど、当然何も考えていなかった。とりあえず言葉を交わすだけでも…と思ったが、何しろ真夜中だ。突然訪れても迷惑になるかもしれない。名前は引き返そうとした。が、部屋からひょっこりと、彼は顔を出した。

「こんな深夜に何かあったか?」
「宗茂さん!びっくりしましたよ…!」
「俺の部屋の前でうろちょろしてた人が言えることか?」
「…えーっと…ですよね…」
「もう真夜中だ、部屋に戻った方が良い」
「えっ、あっ、あの!宗茂さんに用があって…」
「…名前、寒いだろう。入っておいで」

宗茂は手招きをして、彼の部屋へと入らせた。名前が部屋に入ってしまうと、パタンと障子を閉めた。いざ部屋へと入ったのは良かったけれど、本人を前にしてしまうとなかなか言い出せない。宗茂は名前に隣に座るように言った。

「あの、大丈夫です、すぐ終わるので」

こう言い終わるか終わらないかの時に、ぱさりと音がして、上着をかけられた。そして宗茂は名前の隣に立って、改めて座るように言った。その時に両肩に手を添えられたので、一緒に座ることになってしまった。そして本当は寒いはずなのに、耳元で囁くように言われてしまったのでほわほわと体が熱に浮かされたような気分になった。しかし宗茂の方は気にすることもなく、いたって普通だった。

「宗茂さん、あの、」
「何だ?」
「お、お誕生日おめでとうございます」
「ああ、そうだったな」
「それだけ、なんですけど」

やっと言いたいことが言えたけれど、せっかくなら何かお祝いできるものでも用意しておくべきだったと思った。しかし宗茂は静かに笑って名前らしいな、と言った。それが何故だか恥ずかしかった。

「ありがとう、名前」
「えっ、いえいえ」

宗茂はそう言うと、ちょっぴり意地悪そうな笑みを浮かべて名前に言った。

「名前、誕生日の記念に」

そう言うが早いか、宗茂は名前に軽く口付けした。本当に軽く触れるだけの。突然の行動に名前は終始固まったままだった。が、宗茂は満足したのか障子を開けると部屋まで送る、と言った。

「大丈夫ですよ、一人で帰られますし、宗茂さんはゆっくりおやすみになってください」
「じゃあ、誕生日の記念に一緒に寝てくれないかといえば君はどうする?」
「なっ、何を言ってるんですか!冗談を…」
「嫌ではないだろう?」

部屋のろうそくの灯りが宗茂を照らした。じっと目を見たまま、目を離すことが出来ない。すると、宗茂の手が名前の手をとった。そしてその手に誘われるがままに、部屋の中へと引き返した。
そしてしばらくすると、ろうそくの灯りが部屋の中から消えた。
111118 お誕生日おめでとうございます