連載「Ti Amo」 | ナノ


独占欲を持たせてくれない


今日こそは別れる。いや、別れるって言い方もちょっと違うか。そもそも付き合ってないし。

夜連絡すると言われ、レノの家の近くのバーで時間を潰す。本当に連絡が来るのかどうかは半々といったところ。これまでも"寝てた"と朝一通のメールで済まされる、なんて事が何度あったのか。

都合のいい女。まさに私のこと。愛されてもないのに、本命の女がいるのに、頭ではわかっていても心が付いていかない。好き、なんだもん。

"近くのバーにいるね"、このメッセージに既読は付かない。

「どうしたの? 浮かない顔して」

声のした方をみるとまぁまぁそこそこな雰囲気の男。……はぁ、ほんとさ、レノって中身クズだけど外見最高にいいよね。もしもレノよりも見目麗しい男性に声をかけられたらスパッと断ち切れるかもしれないのに。

「別に、何もないよ」
「えー。嘘だ。何かあるって顔してるよ」

なんだろう、このイラっとする感じ。まったくもって興味のカケラも持てない。

「ねぇ、俺に教えてよ、お姉さんのこと。助けてあげられるかもじゃん」

はっ、助けてもらえる訳ないじゃん。好きな人に本命女がいて辛いです、しかもその人とは所謂セフレな関係で、愛されるにはどうしたらいいですかぁ? って言えばいいの? 馬鹿みたい。

手元のお酒を煽って、トン、とグラスをテーブルに置く。

「じゃあ、ひとつだけ」
「うん、なんでも言ってよ」

目を輝かせながら私の話に耳を傾ける男。レノにもこれくらい興味を持ってもらえたらな。最初はまだ良かった。でも回数を重ねるごとに雑な対応になり今では大して話すらしない時もある。いつか付き合えるなんて夢を見てた頃がひどく懐かしい。

「私が笑顔になる方法。今すぐ目の前から消えて」

とびきりの愛想笑いをオプションで付けてあげる。これでさすがにいなくなるでしょ。

「は? なんだよそれ。せっかく俺が話しかけてやったのに」

はい、出た。ナンパ不成功男の捨て台詞。せっかくって何、話しかけてなんてお願いしてない。面倒だなぁと考えてるとガッと手を掴まれた。

「なぁに? 痛いんだけど」
「いいから付いて来いよ。お前を落とせるかどうか賭けてんだよ! 損するだろうが」

私の知ったことではないけれど、掴むその手が力強くて振り払えない。やだ、触らないで。レノ以外いや、気持ち悪い。ぎゅっと目をつぶった瞬間、背中から腕を回され感じる温もりと男のくぐもった声。

「これ俺の」

目を開けなくたってわかる。レノ。来てくれたんだ。

「すぐ消えた方がいーんじゃね?」

愉快そうに話すレノに腕を掴まれ痛みに顔を顰めた男は、バッと振り払うと逃げるように店の隅へと消えていった。

「レノ……」

背中から抱きつかれレノの香りに包まれる。

「何知らねぇ男とイチャついてんだよ、と」

ち、違う! そう反論しようと首を後ろに向けると重なる唇。言葉を言いかけた隙間から舌を割り入れられそのまま流されてしまう。今日別れるんじゃなかったの。もう辛い思いしたくないんじゃなかったの。レノの温もりはそんな気持ちを持つことすら許してくれない。

ちゅ、とリップ音を鳴らして終わるキス。

「行こうぜ」

言葉や態度に反して私の手を握る手が優しくて、勝手に喜んでしまう。全部計算なのかもしれないのに。「これ俺の」なんて私の心を簡単にくすぐる言葉が嬉しくて嬉しくて頬が緩んでしまう。私には持たせてくれない独占欲が心の奥底をじわっと暖める。

「他の男に触らせたお仕置き、しねぇとな」

もう何でもいい。あなたと居られるなら。

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