短編 | ナノ


落ちる音には聞こえないフリ


あーあ。これ、どうしよう。すっごくダサい。ダサい極まりない。今日はもうずっとこんな事ばかり考えてる。あまりにも、「ううーん……」と声に出しすぎていたのか、

「ナマエ先輩、どうしたんです?」

テンションだだ下がりの私にイリーナが声をかける。無言のまま、イリーナの顔の前に、自分の手を差し出す。

「うわっ、これは中々にダサいですね!」

オブラートに包むことなく、私と同じ感想が飛び出した。

「ね、ダサいよね……。恥ずかしい」

そう、私の手はただ今絶賛ダサい様となっている。先日、太陽の高い時間からターゲットの尾行やらなんやらでバタバタと任務をこなしていた。忙しさにかまけて、ついうっかり手に日焼け止めを塗るのを忘れて。そのせいで、指先だけが日に焼けてしまっている。顔にはしっかり塗っていたのに!

私のグローブはオープンフィンガータイプだから、指先だけ焼けてしまってとてつもなくダサい。はぁ。手ってどんな時でも嫌でも目に入っちゃうから、常に意識を持っていかれる。

「あーあ。ほんとダサい……」

「何をそんなに凹んでるんだよ、と」

ブルーな気分な所に突然、鮮烈な赤が割り込んできた。頭の上から降ってきた声を辿るように見上げると、片眉を上げ、「どうした?」と言うような表情のレノと目が合った。

「レノ。これ見てよ」

イリーナに見せたのと同じように、レノにも自分の手を差し出してみせた。

「おー、逆ポッキーみたいになってるな」

これは珍しい物でも見たと言わんばかりに驚いた顔をする、わざとらしいレノの態度に腹が立つ。

あれ、ちょっと待って、レノもこの間同じ任務だったじゃない。それにレノだって同じタイプのグローブじゃん。

「え、レノは? 焼けてないの?」

「あ?」と言いながら、レノは嵌めていたグローブを外して、真っ白で綺麗な指を見せてくれた。

「あんまり焼けないぞ、と」

「ずるい! なんで! 全然焼けてない! 白い!!」

ぎゅっとレノの手を掴んで引き寄せ、表から裏からまじまじと観察してしまう。なんでだ! 男なのに女の私より白くて綺麗。しかもすべすべで肌触りがいい。ふと、手から視線を外し、レノの方を見るとたくましい胸板が目に入る。え、待って待って。あれだけ馬鹿みたいに開いてる胸元も焼けてなくない?

「なんで? レノ焼けにくいタイプなの?」

そう言って何も考えずにレノのワイシャツの襟元に手をかけてハッとする。わ、私、何してるんだ。シャツで隠れている部分もきっと白いんだろうな、なんて、思って、つい手が伸びてしまった。私これ、勝手に脱がそうとしてる痴女みたいじゃない。

「えっち」

「んなっ……!!」

真っ赤になりテンパっている私を、口端をニヤリと釣り上げた意地悪そうな顔が覗く。にやにやしたまま、私の焼けた指先をレノの白い指がなぞって。マリンブルーの瞳が近づいたと思ったら、耳元に熱い吐息。ふわりと鼻をかすめるレノの香水の香りが二人の近さを物語り、ひゅっと、息が止まる。

「ナマエになら全部見せてやってもいいぞ、と」

直接耳を刺激するようにねっとりと囁かれた声。隣のイリーナが、「ぎゃああレノ先輩セクハラです!」とか叫んでるけど、上手く私の耳に入ってこない。

やばい、やばい、やばい。心臓ってこんなに早く動くものだったかな。掴まれてしまった。何もかも。

すとん、と。恋に落ちる音が聞こえたけど、まだ聞こえないフリ。

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