短編 | ナノ


ラッキーカラーは赤。


私は神羅ビルのリフレッシュフロアにあるカフェテリアのアルバイト。最近、お客さんの中で探してしまう人がいる。黒いスーツに真っ赤な髪。あの”タークス”に所属しているレノさん。(と、言ってもどんな仕事をしているのかイマイチわからないけど)初めて見た時から、心を奪われてしまった、目に焼き付いて離れない赤。

そんな彼はちょこちょことカフェテリアを利用する。忙しいのか毎日見かけることはないけれど。それでもたまに来店し、運良く接客できた日には、それはもうご機嫌な1日になってしまう。話なんて、ほとんどしたことないし、そもそもレノさんのこと全然知らないし、それでも気になってしまう。私もミーハーなんだな、なんて。

「注文いーかぁ?」

声に驚き見上げるとそこには赤毛の彼が手を振っている。しゃがみこんで、焼きたて熱々のマフィンを商品棚に入れていた私はレノさんが来ていることに気づかなかった。

「あ、はい。すみません、どうぞ」
「ん、コーヒー3つ」
「ガムシロとミルクはお付けしますか?」
「1個ずつ頼むぞ、と」

いつも買うのはコーヒー。日によって個数は違う。大抵ブラックのみだけど、3個の日は決まってガムシロ、ミルク1個ずつ。オフィスの人用なのかな。もうすっかり覚えているけど、少しでもお話したくて毎回聞いてしまう。覚えの悪い店員だって、思われてたらどうしよう、いや、そもそも覚えられてすらないか。そんな事を考えながら、コーヒーを用意し、テイクアウト用の紙袋に入れる。

「おまたせしました!」
「サンキュー」

携帯端末でピッとお会計を済ませ、コーヒーの入った袋を持ち上げようとする。私から視線が外れたその瞬間、私はじぃっとレノさんを見てしまう。こんなに近くで見られるのはこの一瞬。
伏し目がちなレノさんはとても色っぽい。睫毛、長いなぁ。肌が白い、綺麗。頬の赤いのはタトゥー、なのかな。男性にしてはぷるんとした唇も魅力的。つまり、どこをどう見ても最高。はぁ、かっこいい。

「あんた、いつも見過ぎだぞ、と」

いつもならそのまま立ち去る彼が、ニヤリと口の片端を吊り上げてこちらを見ている。美しい虹彩がいたずらっぽく細められる。その表情から不快なものではなさそうだけど。

「えっ……! あ、あの、すみません……」

顔に熱が集まるのがわかる。ま、まさかバレてた!? 突然の出来事に慌てふためいてしまう。そんな私を見て、彼は満足そうにくつくつ笑ってる。「あーんな情熱的に見つめられてバレないと思ってたのか?」なんて言われたらもっともっと顔が赤くなって、もう火を噴く寸前。心臓はいまにも口から飛び出してしまいそう。

「ごめんなさい、気をつけます……」

ようやく絞り出せた言葉は尻すぼみに小さくなっていく。不快さは見えなかったものの、そりゃジロジロ見られていたらいい気分はしないよね。今後気を付けなきゃ。

「いや、別にいーんだけどよ」

言うなり、ずいっとレジテーブルに身を乗り出し、彼の顔は私の目の前。魔胱にも似た淡いアイスグリーンの瞳が私を射抜く。

「どうせ見るならちゃんと見ろよ。俺、結構あんたのこと気になってるんだぞ、と」

そういえば、今朝の占い、ラッキーカラーは赤だった。あれはレノさんの髪色だったのか。占いって当たるんだなぁって、ふわふわした頭でどうでもいいことを考え始めた午後の昼下がり。

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